日本人が住みたい国として人気なのがマレーシア。温暖な気候や物価の安さ、日本から遠すぎず近すぎない飛行機で約7時間というのも理由だろう。しかし新型コロナウイルスにより発令された活動制限令は、現地在住者に「海外に住む」「国境を越える」ということを改めて感じさせることになったようだ。
政府の緊急記者会見で街はゴーストタウンに
「3月16日の22時に実施されたマレーシア政府の緊急の記者会見により、3月18日から31日までマレーシア全土に活動制限令〔通称MCO:Movement Control Order〕が発令されましたので、明日から在宅勤務でお願いします」
3月17日の早朝、会社からこのようなメールを受け取った。世界を取り巻くコロナの現状についてはニュースでも見ており、各国がロックダウンを始めているのも知ってはいた。しかし、それを対岸の火事のように見ていたのは、私だけだったのだろうか?
「MCO」とは俗に言うロックダウン、都市封鎖のことである。
マレーシア政府の発表後、食料の買い出しに出かけたが、レジは長蛇の列、乾物や缶詰など長期保存可能な食材は品薄、トイレットペーパーはすでに品切れだった。
オンラインサイトを見ても、品切れの商品がいつもより目立つ。薬局・スーパー・病院など日常生活に必要な商店や施設以外はクローズされ、シャッターが下ろされた街を見ると、まるでゴーストタウン、いつか見た映画のシーンのようだ。
年中暑い国の国民全員が、マスクをして外出する日が来るとは誰が想像できただろうか? マレーシア人の温厚でゆるやかな国民性として、通常はゆっくりと物事が進み、良い意味でも悪い意味でも融通がきく、しかしこのMCOに関しては、マレーシアは別のふたつの顔を見せてきた。
のんびりした国で突如として始まった厳しい制限
ひとつはスピードである。MCOのアナウンス後、たった2日でマレーシア政府により州をまたいでの移動、不要不急の外出の禁止、車1台当たりの乗車人数の制限、など細かい制限が開始された。
モスクでのクラスター感染も報告されていたので、モスクでの金曜礼拝も禁止になった。国民の70%がイスラム教のマレーシア、ムスリムにとってモスクでの金曜礼拝が禁止されるということは、長年大切にしていたモノを、急に奪われてしまったような感覚に陥ったのではないだろうか?
そして、ふたつ目は規則に対する厳しいチェックと罰則だ。MCO中は、飲酒運転のチェックのように、道路には警察が待機していた。1台1台車を止め、1台当たりの乗車人数が規制を超えていないか、不要不急の外出をしていないか、州をまたいでの移動をしていないかをチェックするためだ。
私も買い物から帰る際に、Grabというタクシーの配車アプリを使用し自宅に向かっていたが、警察のチェックに遭遇し、どこに行っていたのか? どこに帰るのか? などの質問を受けた。
マレーシアでは、外国人が出歩く際はパスポート所持を義務付けられている。普段は紛失が怖くて持ち歩かないが、今は警察に提示を求められる可能性が高いので、外出の際は必ず所持するようにと、ローカルの友人からアドバイスをもらっていた。
このときは、警察にパスポートと住所が記載された電気料金の検針票、買い物のレシートの3点を提示し、不要不急の外出をしたのではないこと、州をまたいでの移動をしていないことを証明し、ようやく無事に自宅に戻ることができた。
MCOの規制を甘く見ており、ジョギングしていた日本人が警察に一時拘束されたとのニュースも耳にした。MCOの規制に反すると罰金、場合によっては6ヶ月以内の禁固を課せられる。