新型コロナウイルス感染が広まるなかで、私たちは何をすべきなのでしょう。子どもを育てる親にとっても、不安を感じる日々だと思います。腸内細菌研究の第一人者である藤田紘一郎氏によると、近年注目される「腸内フローラ」の多様性は、3歳までにできあがるとのこと。人間本来持つ「免疫力」について、わかりやすく解説します。

※本記事は、藤田紘一郎:著『感染症と免疫力』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。

IgA抗体の力で作られている腸内フローラ

免疫力を総合的に高めるためには、腸によい生活をすることです。人の免疫力の7割は腸でつくられているからです。腸は人体最大の免疫器官です。その免疫力の構築に働いているのが、腸内細菌です。

細菌たちは、仲間たちと集落(コロニー)をつくって腸壁に広がっています。そうした姿がまるでお花畑のように美しいことから、腸内細菌叢は「腸内フローラ」とも呼ばれています。

▲IgA抗体の力で作られている腸内フローラ イメージ:PIXTA

では、腸内フローラは、どのように築かれるのでしょうか。ここでも、免疫が重要ポイントになります。

腸の上皮細胞の表面には、粘液があります。栄養素にまぎれて病原体が体内に侵入しないように、この粘液には殺菌物質やウイルスを不活化する成分が含まれています。また、IgA抗体も大量に存在しています。IgA抗体は、腸粘膜のなかにあって、侵入してくる病原体を殺すための物質と考えられてきました。

ところが最近の研究によって、腸にどの細菌をすまわせ、どの細菌を排除するのか、それを決めているのもIgA抗体であることがわかってきました。

人は誕生とともに、免疫ゼロの世界から雑菌だらけの世界へと飛び出してきます。まず赤ちゃんが吸い込むのは、お母さんの産道にいる細菌たち。そして、出産でいきむ際にお母さんがほんのちょっともらす大便から、お母さんの腸内細菌も受けとります。

その後、助産師や医師、看護師など分娩室にいる人たちの呼気とともに排出された細菌や、お母さんの肌にいる細菌、抱っこしてくれる人たちの細菌など、さまざまな人とふれあうことで、たくさんの細菌を腸にとり込んでいきます。

赤ちゃんが動くようになると、手に触れるものはなんでもなめるようになりますし、ハイハイした手足もチュパチュパなめます。床にもテーブルにも空気中にも、雑菌がたくさんいます。その多くは、土壌菌の仲間であることがわかっています。赤ちゃんは、そうした細菌をどんどんとり込むことで、自らの腸内フローラの組成を豊かに築いているのです。

だからといって、すべての細菌をすまわせるわけではありません。どの細菌を腸にすまわせ、どれを受け入れないのかは、IgA抗体が選別しているのです。

IgA抗体がくっついた細菌だけが、腸内の粘液にすみつくことができます。そうでないものは定着できません。こうしたシステムが、生まれたばかりの赤ちゃんの腸にはすでに築かれているのです。

IgA抗体は腸の粘液でつくられます。また、母乳にもふくまれます。とりわけ、母親が初めて出す初乳には、たくさんのIgA抗体があります。初乳の重要性は昔から知られていました。生後まもない赤ちゃんの感染症を防ぐためです。けれども実際には、細菌を腸にとり込むためにも必要だったのです。

こうして、人はIgA抗体の力を借りながら、腸内フローラの多様性を築いていきます。その組成は3歳までにできあがります。その後は、どんなにすばらしい細菌が入ってきても、腸にすみつくことは許されないこともわかってきています。