変化した生活様式と見直された漢方薬
新型コロナウイルス発生後、変化した生活様式もある。昨年2月から国民へ全国的な外出機会の減少が要請され、外出は世帯ごとに一日につき一人だけ、一回のみが許可された。外出が制限され、家族が共に過ごす時間が増えたことにより、良くも悪くも家族の交わりは増えた。
好感のもてるエピソードといえば、中国では両親ともに働いている家庭が多いが、この時期は一緒に家で料理を作る機会が増えたというもの。インターネットでさまざまなレシピを手に入れ、普段は作らないような手間のかかる料理を作るなど、レシピの幅が広がったという。
もちろん家族とはいえ、人間関係の距離感が急激に縮まったことによるトラブルもあったと聞く。しかし、それもこの厳しい外出制限のあった時期のことで、元の状態に戻りつつある現在の生活に残ったのは、上達した料理の実力だけと笑う人もいた。
ちなみに、2003年にSARSが発生した時期は、延辺朝鮮族自治州ではキムチやチョングッチャンなどの発酵食品が、SARSに対抗しうる食品として認識されていた。しかし今回の新型コロナウイルスでは、当時よりあまりにもウィルスに対する恐怖感が強く、このような発酵食品は役に立たないと思われていたようだ。その代わりに流行ったのは、中医薬の専門家がすすめた漢方薬「蓮花清瘟カプセル」だった。
人々はこぞって、この伝統的な漢方薬を買い求めようと夢中になったのである。
また、面白い変化に「配達員」のイメージアップというのもある。外出や外食があまりできない間は、出前サービスや便利屋を利用する人々が増えた。特に武漢やその周辺都市では配達員に頼って生活せざるをえず、食材の購入や料理ができない人々にとって配達員は「命の恩人」になったのだという。
このとき配達員も、自身の利益だけではなく「皆でちゃんと生きていく」というメッセージを打ち出して仕事を続けたこともあり、サービスを利用する人々は、人同士のつながりやその暖かさを改めて感じるきっかけとなり、配達員たちのイメージはそれまでとは違った意味で向上した。
仕事や勉強の場でも、このコロナの影響で変わった点がある。日本でも、ステイホームやテレワークといった言葉とともに「Zoom」や「Teams」などのオンライン会議ソフトが一気に広まった。中国でも同じように「Ding Talk」や「VooV Meeting」というオンライン会議ソフトやアプリケーションが開発され、オンラインでの仕事が朝晩のラッシュを回避し、移動時間の短縮になるともてはやされた時期があった。
しかし一方で、直接顔を合わせないオンラインでの仕事になったことで、目に見える実績だけで評価がされる、残業が多くなるなどのデメリットがでてきているという。オンラインツールを使わざるを得ない状況で、当初問題が発生するのは仕方のないことだが、これからはツールの問題ではなく、使いこなす人側の問題になるだろう。
せっかく得た便利なツールを今後も活かしていくためにも、オンラインと対面を併用した仕事形式における、新たな評価システムが求められているといえるのかもしれない。
国や民族を越えた助け合い
最後に、日本における中国朝鮮族の団体「全日本中国朝鮮族連合会」と延辺朝鮮族自治州がネットワークを通じて、コロナ下で行った交流についても触れておきたい。昨年2月に中国でコロナが広がった際には、全日本中国朝鮮族連合会は日本国内の14個の朝鮮族団体に呼びかけ、延辺朝鮮族自治州へマスク・医用手袋・防疫服などの寄付を行った。
その後、今度は日本の感染者数に増加の傾向が見られ、4月8日から緊急状態に入ると、延辺朝鮮族自治州は全日本中国朝鮮族連合会へマスクを寄付し、4月15日から日本にいる朝鮮族の人々の手に次々と届いたのである。
また、中国での新型コロナウイルスの封じ込め時期には、日本の朝鮮族だけではなく、韓国からの支援もあり、病院のマスクや医療用手袋などはMade In China, Made In Japan, Made In Koreaが混在していた。
グローバル化の進む現在、新型コロナウイルスを目前にし、朝鮮族という民族のネットワークのみならず、中国と日本の民間の人々が互いに助け合う図式が見られたことはとても尊いことであるように思う。
このような美しさは、普段は私たちのなかに隠れているものの、災害や災難があった際には、国や民族を越えた人間同士の思いとして姿を見せる。このような姿こそ、私たちが今日追求する幸せではないだろうか、とコロナが私に考えさせてくれた。
2015年に来日。中国吉林省延辺朝鮮族自治州で育ち、現在も日本の大学院で学ぶ。大学時の専攻は新聞学であり、その影響で映像の編集や写真撮影に興味を持つようになり、日常生活で常にカメラを持参している。自然の風景を撮ることを好み、いつか撮った写真で稼げる生活を夢見ている。