2019年12月、中国で新型コロナウイルスが最初に報告された。ここから武漢を始めとする中国全土で、新型コロナウイルスとの戦いがスタートした。ここでは、中国のなかでも少数民族である朝鮮族に焦点をあて、コロナ禍でどのような生活をしていたのかを紹介したいと思う。
延辺朝鮮族自治州では感染者が少なかった
そもそも中国の少数民族である「朝鮮族」の存在を、ご存知ない読者もおられるかもしれない。初めに簡単に説明を加えておくと、中国では国民の92%を漢民族が占めている。
しかし、中国国内の民族は漢民族も合わせて56民族存在する。つまり残りの8%のなかに、漢民族以外の55民族が存在し、朝鮮族はその55民族のうちの1つの少数民族なのである。この朝鮮族が最も多く住んでいるのが延辺朝鮮族自治州であり、約80万人がここに集中している。
この延辺朝鮮族自治州を中心に、朝鮮族における新型コロナウイルスの感染者数の推移を見てみると、2020年1月29日に最初の確定診断感染者が現れ、一時的2名まで増加したが、2月24日にその数は0名になった。
その後、中国以外の各国で感染者が現れはじめ、中国国内でも武漢・北京・上海などの大都市で帰国者の感染者が増加していったなか、延辺では3月27日に帰国者のなかから1名の感染者が出た。3月28日に2名になったが、その後の増加はみられないという低い感染者数が維持されている。
12月中旬現在、大連では再び封じ込めが行われる事態が始まったが、延辺にはその兆しは一切ない。中国全土でのコロナ下の状況は、各地でかなり差があるのが現状だ。
現在、延辺朝鮮族自治州では、学生は対面授業をしており、サラリーマンも毎日通勤をし、在宅ではなく会社で仕事ができている状態だ。また、飲食店やカラオケ店なども通常営業しており、気分転換のために旅に出る人々もいる。
その旅行も、日本のGoToキャンペーンのような国の支援はなく自費で行っている。感染者が出たときには、街ではマスクをしなければ非難されるのは当然だったが、今はマスクをしなくても白い目で見られることがない。
生活様式は、新型コロナウイルス発生前とほぼ同じのように戻っているように思える。むしろ現在の朝鮮族の人々の心配事は、新型コロナより冬の雪による自然災害のほうにある。このあたりは、日本国内とは意識の対象に大きな違いがありそうだ。
新型コロナをコントロールした「英雄」の存在
現在、感染の恐怖をほぼ感じない生活ができているのは、政府の施策によるところがやはり大きい。一時期はコロナ禍の代名詞にもなった武漢に、政府の号令によりたったの10日間でコロナの専門病院が建てられたことは有名だろう。
武漢以外の場所にも動きはあり、昨年2月当時は全国各地の病院から医者と看護師が武漢に派遣され、人手不足を少しでも解消する措置がとられた。
新型コロナウイルスのワクチン開発も進んで、もうすぐ投入が可能になる。しかし、当時は新型コロナが恐怖なウイルスであることしかわからず、武漢に派遣された医者や看護師にとっては、死地となるかも知れない戦場に行くようなものだった。
医療関係者と市民の協力を得て、武漢の感染者数の増加は徐々にコントロールされてくると、地方から派遣された医師や看護師たちも故郷に戻り、彼らには「英雄」としてコロナ治療行為に対する「光栄賞」などが授けられ、特別ボーナスも与えられた。
延辺朝鮮族自治州でも、英雄たちは武漢に派遣もされつつ、延辺地域での予防措置も行っていった。各病院では、いくつかのフロアを丸ごと感染者専用所に改装し、感染者が出た場合にも対応できようにしていた。
また、公共の場での体温測定や人数の制限はもちろん、帰省者や帰国者に対しては自主隔離を要請し、隔離者の食材やゴミなどは、街の役員たちが責任をもって提供・回収した。また国に指定された役員は、感染者の追跡や管理、感染予防に務め、人々にも新型コロナウイルスの拡散を防ぐための措置を求めていた。
一方で、新型コロナウイルスへの対策を重視せずに、拡散を防げなかった事例もある。舒蘭市では、スーパー・スプレッダー(特に感染力の強いウィルスをもつ感染者)の追跡管理ができておらず、31人の感染者が生まれてしまった。この責任を取り、5月15日に吉林省舒蘭市委書記が罷免に、16日には吉林省吉林市衛生健康委員会副主任をはじめ5人の政府役員が罷免された。
ちなみに延辺朝鮮族自治州は、地域区分では同じ吉林省に属しているが、当初のデータから見ても、延辺朝鮮族自治州においてはそこまでの感染者は出現していなかった。
しかし、舒蘭市の事態を重くみた国からの要求もあり、延辺朝鮮族自治州でも一連の厳しい予防対策がとられたのである。そして注目すべきは、この動きが中国全土で感染者数の多寡を問わず、都市であるか農村であるかも問わず行われていったことだ。