これまで世界50カ国以上、500種類以上のお菓子と出会い、「現地のお菓子を、現地で、現地の人々と一緒に作る」ことでそれらの裏側にある物語を学んできたパティシエの鈴木文さん。
鈴木さんは「世界各国で人種や文化、習慣が違うように、我々が日々口にしている“お菓子”も、その国、その地域でまったく異なる顔を持っている」「各国のお菓子の裏側にあるストーリーというのは、実に興味深く、面白いもの」だと語ります。
中でも長い歴史の中で常に人々が往来し、文化の融合を繰り返してきたヨーロッパのお菓子は印象的だそう。お菓子が世界に広がるきっかけとなったヨーロッパにはどんな西洋菓子があるのでしょうか?
※本記事は、鈴木文:著『旅するパティシエの世界のおやつ』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。
お菓子が世界に広がるきっかけとなったヨーロッパ
アフリカ大陸からアメリカ大陸まで大航海時代に世界中を席巻した西洋文明発祥の地
キリスト教を土台とした西洋文明発祥の地、ヨーロッパ。
15世紀から始まった大航海時代には、スペインやポルトガル、イギリス、オランダが中心となり、海を越えて世界へ進出。16〜20世紀の間には、アフリカ、オセアニア、アメリカ、アジアなどを欧州各国がその支配下に置きました。
なかでもスペインとイギリスの植民地支配は世界全体に及び、両国が「太陽の沈まない国」と呼ばれていたことは有名な話です。
アメリカ合衆国とソビエト連邦の台頭もあり、その支配的な地位を徐々に失っていきましたが、EUの実現、中欧や東欧の経済成長もあり、政治、経済、文化などあらゆる面で、未だ世界のなかで大きな影響力を保持し続けています。
キリスト教や貴族文化から誕生。7つの海を越えて、昔も今も世界中のお菓子文化をリードする“西洋菓子”
11世紀の十字軍のエルサレム遠征を契機に、砂糖やお菓子が中東から伝わり、そして花開いたヨーロッパのお菓子文化。
大航海時代には中南米やアフリカにも伝わり、現代ではすっかりヨーロッパ由来のお菓子が現地に定着。
日本にも“南蛮菓子”として多くのポルトガルのお菓子が伝わり、今ではカステラや金平糖などの和菓子として親しまれていることをご存知の人も多いはず。
それらのお菓子は、キリスト教が根付いた地域らしく、ポルトガルやスペイン、フランスなどの修道院で誕生したものが多いのが特徴。
ちなみに、14〜16世紀のルネッサンス期に政略結婚が繰り返されたことで、欧州各国の文化が持ち込まれたフランスでは、貴族のお抱え菓子職人たちの手によって、ヨーロッパ中の美味しいエッセンスが取り込まれていくことに。
今日の、世界をリードするフランスのお菓子文化の下地は、ルイ王朝の時代にはすでにできあがっていたようです。
たくさんの国が隣り合い、人も文化も頻繁に往来し、複雑に融合し続けてきたヨーロッパ。「西洋菓子とは……」と、ひとくくりに語ることは難しいというのが、正直なところです。
今回は、そんなバラエティ豊かなヨーロッパのお菓子のうち、私が現地で出会った印象的なものを選んで、ご紹介します。