子どもに「スポーツを嫌いになるきっかけ」を与えない

新保 イワオさんの顔が、これまで見たことのないくらい、とっても楽しそうな野球少年のような顔になっていて私も楽しいです。さて、野球だけでなく、いろんなスポーツが上手になりたいという子どもたちや、それを応援している親御さんにアドバイスをいただけますか。

木村 僕が考える、子どものときに身につけておきたいことは「夢中になる力」です。“夢中”になるというのは、今まさに取り組んでいることに対して「深く集中していくこと」と「そのことが楽しくて仕方がない」という状態が、同時に起こっていることです。

では、子どもたちに夢中になってもらうために、大人ができる1歩目が、“放っておくこと”です。とにかく、ああだのこうだの、外からアドバイスを言わない。理由は、動きが止まってしまうからです。子どもたちは、“動く”ことで、いろんなことを学んでいきます。

例えば、子どもがバッティングしているとき、バットスウィングなんて程遠いスウィングで、ボールに全く当たる気配すらしなくても、その子のなかでは、バッティングをすることに本気になっていますね。なので、何回もやろうとします。

何回も振っていくなかで、やっと奇跡的にボールに当たった瞬間がやってきます。その瞬間、子どもの脳にはドーパミンが出て「うわぁ! 今のをもう一回感じたい!」と次の意欲につながりつつ「今たしか、こんな感じて体を動かしたな……」という情報が、脳にイメージとしてフィードバックされて、ボールに当たるコツを記憶として保存していきます。

こんなことが脳と体で起こっているときに、外からガミガミとアドバイスされてしまったら、簡単に容量オーバーになってしまいますね。

では次に、野球が大好きなお父さんたちが「うちの息子にできるコーチング」とはなんでしょう。最も安全かつ効果が高いコーチングは、“見せて、モノマネする”ことを一緒にやることです。バッティングであれば、お気に入りの選手など、いろんな選手がバッティングしている映像を見たり、実際に球場でナマのバッティングを見せてあげること。

そして、親子で、“モノマネ”をすることです。もともと脳には、他人の動きを見て、自分の動きを調整する機能が備わっています。なので、映像を見てマネをするときには、ピッチャーとバッターの対戦している映像がオススメです。

バッティングは、ピッチャーの投げたボールを打つことですから、ピッチャーと実際に対戦しているバッターの動きをトレース(自分の動きとして写しとること)することで、タイミングをとって、ボールを見つつ、ボールを打つという全体が、身体感覚として丸ごと練習できることになります。小学生までは、どうやってバットを正しく振るかのように「考えさせて動く」よりもこのバッターどんな感じで打ってるかな? マネしてみて!」と“感じて動く”体験を積んでいくことが大切です

新保 私の息子も野球をやっていて、私は技術的なことがわからないので、むしろ何も言えないんですけど、一挙手一投足、自分のお子さんのプレーに対して厳しい口調で言う親御さんがいらっしゃって。そのお子さんはプレーのたびにお父さんの顔を見るんです……。今、木村トレーナーの話を伺っていると、子どもたちが心から夢中になれるというのが大切なんだと感じました。

木村 そう、やっぱり「夢中」って大事なんですよ。新庄さんとの練習を振り返ってみても、とんでもない“深い集中力”で自分の体と向き合っていましたし、苦しいときでもその状態を心から楽しんでいらっしゃいました。まさに、新庄さんこそ“夢中”になれるスイッチを持っていらっしゃる人ですね。

5~6人がここ(IWA ACADEMYの地下1Fにある練習エリア)に入っていても、誰も一言も発しないくらい集中している。こんなにも1球打つのに集中するのか、と驚くほどです。よく「試合は練習のように、練習は試合のように」って表現しますが、本当にやっている人を初めて見ました。僕が1球トスあげるのに、しっかりイメージを固めるまで構えない。そして構えたら僕がすかさずトスを投げる。

新保 最後に指導者として、将来の夢を教えてください。

木村 練習してうまくできるようになる人がたくさんいるのに、その発表の場、アウトプットの場がなさすぎると思います。だから、リーグを作りたいですね。たとえば、今週の土曜日はなんの予定もないな。よし、リーグにアクセスして、1時からの試合にエントリーしよう。2番ショートを希望しようと。そうしたら、木曜日にメンバーが確定して、スタメン起用が決まる。ワクワクして週末を待つわけです。そうしたら、自分から練習しないわけがないですよね!

コロナ禍の影響もあって、部活動自体の運営が難しいという時代にもなりそうです。だからこそ、年齢や性別を問わず、いつでも好きなスポーツの試合ができるリーグがあれば、楽しいと思いますし、スポーツをしながら、いろんな可能性にもチャレンジできる時間もできると思うんです

子どもたちには、本当に成長していくまで、自分にどんな可能性があるのかわからない。「チームでレギュラーだからすごくて、控えだから可能性がない」という考え方こそ、子どもたちの未来につながりません。いつからだって、可能性にチャレンジできるんだっていうマインドを育てることこそ、スポーツの醍醐味だと思います。

答えよりもっと大事なことは、勇気出して、自分を試すことだ」――今回の新庄さんとの出会いで、とても大切なことを教えていただきました。子どもたちが、いつでも、何回でも、自分の可能性を試すことができる、そんなリーグを作りたいですね!

新保 いいですね! 是非叶えてもらいたいです! また機会があったら、子どもたちの体育の話なども伺いたいです。木村トレーナー、今日は楽しいお話をありがとうございました。


IWA ACADEMY
アスリートのみならず子どもから年配者まで誰でも利用できる複合型スポーツ施設。プロアスリートのトレーニングメソッド、ケア・メンテナンスをあらゆるスポーツに応用。それぞれの夢や目標を実現するために、オリジナルプログラムを提案し、マンツーマンでサポートする。プラクティス(実践)、ストレングス(強化)、リカバリー(回復)の各サイクルに経験豊かなトレーナーを配し、ハイクオリティーなスポーツ指導を実現する。2021年4月より『MTX ACADEMY』に名称変更。
ホームページ:https://iwa-academy.com/
聞き手
 
新保 友映(しんぼ ともえ)
フリーアナウンサー。山口県岩国市出身。青山学院大学卒業後、ニッポン放送にアナウンサーとして入社。『ニッポン放送ショウアップナイター』『板東英二のバンバンストライク』などでプロ野球の現場取材などを長く担当。その他『オールナイトニッポンGOLD』『高嶋ひでたけのあさラジ!』『高田文夫のラジオビバリー昼ズ』『三宅裕司サンデーハッピーパラダイス』などニッポン放送の看板番組を務める。2018年6月よりフリーアナウンサーとして活動を開始。プロ野球の取材・コラム執筆、経営者のインタビュー、イベントの司会など、幅広く活躍している。
所属:B-creative agency (http://bca-inc.jp/)
出演:『大石久和のラジオ国土学入門』(ニッポン放送) https://www.1242.com/kokudogaku/