地理的な条件が政治のあり方を左右すると考えて、問題を分析したり戦略をたてたりすることを地政学といいます。地政学的に見たそれぞれの国家の状態や問題は時代によって変わります。世界情勢と周辺の国家が、それぞれの国益をどのように考えているかによって変化するわけです。「ポストコロナ」の地政学をケント・ギルバート氏が解説。
※本記事は、ケント・ギルバート:著『強い日本が平和をもたらす 日米同盟の真実』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
地政学的に危険な位置にある日本列島
地政学的に日本列島は現在、たいへん危険な位置にあります。その危険度が確実に表面に現れてきたのは21世紀に入ってからです。日本にとって危険な存在とは、もちろん、中国です。
2008年の3月にアメリカの上院軍事委員会で、米太平洋軍総司令官ティム・キーティング海軍大将が興味深い証言を行いました。前年の5月に、中国の海軍高官から「現在、我々は空母開発を進めている。将来、太平洋を分割してハワイから西を我々、東をアメリカが管理して情報管理をしてはどうか。アメリカの手間も省けるだろう」と提案されたというのです。
当時、ワシントンタイムズなどがこの件を報道していましたが、アメリカのなかにも、いわゆるパンダハガーと呼ばれるような親中派の政治家もいて、提案を前向きに受け止めようという声もあったといいます。直接提案を受けたキーティング海軍大将は、即答で「No Thanks」としたそうです。中国の太平洋分割案は、おおかたは笑い話のように受け取られました。
しかし、中国にとってこの提案は笑い話ではなく、計画は着々と遂行されていました。2012年に中国は、自国初の航空母艦「遼寧」を完成させます。
そして、その翌年の2013年6月、習近平国家主席が時の米大統領バラク・オバマと公式に会談を行い、そのなかで「太平洋には米中両大国を受け入れる十分な空間がある」と語ったことは、日本のメディアでも盛んに報道されました。この会談は8時間にも及んで話題になりましたが、そのなかで習近平は、尖閣諸島上陸を黙認するよう要請したとも噂されています。
日本にじわじわと広がる中国の間接統治
歴史的に見て、数千年来中国大陸に興っては消えていった帝国の数々が、内陸には侵攻を進めるものの、太平洋に対して野心を向けたことはありません。あからさまに太平洋に対する欲望を語り、南シナ海での軍事行動を見ればわかる通り、計画を実行に移したのは、現在の中国共産党が独裁する中華人民共和国が初めてです。
そんな状況のなかで、日本列島はどのような地理的位置にあるでしょうか。世界地図を、東を上にして、中国大陸から太平洋を望んでみれば、これはたいへんだ、と誰もが思うでしょう。太平洋侵出をもくろむ中国にとって、日本列島は邪魔な壁そのものです。出口をぴったり蓋をしてしまっています。中国が、日本列島を我が物にしたいと考えるのは当然でしょう。
我が物にするためには、いろいろな方法があります。大きく分けて、軍事的に武力で侵略して政権を奪取する直接統治と、国家はそのままにしておいて工作をしかけ、内部を腐らせて思い通りにしてしまう間接統治の2つがあります。
金銭的・経済的に牛耳ったり、自国に有利な思想を相手国民に植え付けて我が物にしてしまう間接統治は、日本において、すでにかなり進んでしまっているのではないでしょうか。在日中国人の数を見ても、法務省の統計発表によれば、2019年末の時点で81万3675人。この数字は世界一です。
そして、中国には2010年に施行した「国防動員法」という法律があります。国防動員法では「中国国内で有事が発生した際には、全国人民代表大会常務委員会の決定のもとで動員令が発令され、18歳から60歳の男性と18歳から55歳の女性が国防義務の対象者となる。国防の義務を履行せず、また拒否する者は、罰金または、刑事責任に問われることもある」ということが規定されています。
つまり、日本を敵対象とするような有事が起こった際には、日本国内にいる80数万人の在日中国人が一斉に、中国のために敵対行動に動き出すということです。
首尾は上々、準備万端整っている、といったところでしょうか。そして、直接的な軍事行動として、南シナ海への軍事進出があり、尖閣諸島での領海侵犯行動があります。
海上保安庁の発表によれば、2020年の1月から8月、新型コロナウイルス禍の最中にあって、領海侵犯の中国船は873隻で、初めて領海侵入が起こった2008年12月以来、過去最多となっています。
日米安保条約はこうした事態のためにこそあり、自衛隊と在日米軍は今この時も、そのために活動しています。