騙されないための知恵を身に着けるには、よき読書を習慣とすること。作家の倉山満氏も、子どものころは「これが世の中の仕組みだ!」と解説している本の「陰謀論」を信じていたそうです。「自分のようなちっぽけな存在には手の届かない力によって、この世は支配されているのだ」式の陰謀論に。
※本記事は、倉山満:著『バカよさらば』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
「1999年に地球が滅びる」ノストラダムスの予言
昔から「陰謀論」は流行しています。特に、出版界では根強い人気を誇っています。その中でも「キング・オブ・陰謀論」「東西両横綱」「双璧」は、五島勉さんと宇野正美さんでしょう。この二人には敬意を表して“さん”付けで呼ばせていただきます。
五島さんは、かの有名な『ノストラダムスの大予言』(祥伝社/1973年)で一世を風靡しました。
同書は、16世紀フランスの宮廷政治家であるミッシェル・ノストラダムスの詩を独特すぎる解釈で読み解き「1999年7の月にアンゴルモアの大王が空から降ってきて地球が滅びる」と予言、250万部の大ヒットとなります。その後『ノストラダムスの大予言』シリーズは「地球が滅びる」1999年まで売れ続けるロングセラーとなりました。
五島さんは、ノストラダムスの予言を軸に当時の社会で起こっていた諸事件を読み解き、聖徳太子、ヒトラー、アインシュタイン、イソップ物語……と様々な要素を絡めて手を変え品を変え、読者が飽きないようにストーリーを組み立てては、我々が生きている世界を裏で支配する、怪しげな陰謀を世に提示し続けました。その手法は、エンターテインメントの極致と感嘆する他ありません。
冷静に考えれば「1999年に地球が滅びる」というノストラダムスの予言は、五島さんの勝手、もとい、独特すぎる解釈だけが根拠であり、客観的には何の証拠もない話です。実際、それから20年たっても地球はピンピンしているのですから。
五島さんが世に出た1973年(昭和48年)頃というのは、石油ショックの到来で20年続いた高度経済成長が止まり、日本人が将来に不安を抱いていた時期です。また、この頃は、UFOを始めとするオカルト全般がブームになっていました。
人は心が弱っている時にこそ、騙されるものなのでしょう。普段は毅然とした女性が、弱っているときには結婚詐欺師に引っかかるように。
「ユダヤ陰謀論」ロックフェラーによる支配
もう一方の陰謀論の雄である宇野正美さんは、いわゆる「ユダヤ陰謀論」を大流行させました。
「世の中のことが知りたい!」そんな渇望だけが先走っていた中学1年生の私は、宇野さんの『ユダヤが解ると世界が見えてくる』(徳間書店/1986年)を手に取り、衝撃を受けました。当時、目に飛び込んできたその一節を引用します。
アメリカ・ユダヤ最大の財閥はロックフェラー家だが、一九七四年に「ロックフェラー家の富に関する米国議員のための報告書」が発表されている。これによれば、アメリカのロックフェラー家に属する財産は、六四〇〇億ドルを超えている。仮りに当時のレートを一ドル=三〇〇円として計算すると、実に一九二兆円という、気の遠くなるような額である。(中略)このマンモス・ユダヤ財閥はアメリカ一〇大企業のうちの六社、一〇大銀行のうちの六行、一〇大保険会社のうちの六社を完全に支配し、全世界で二〇〇を超える多国籍企業を持っている。(中略)アメリカ有数の大企業がことごとく支配下に置かれている。
日本はどうすればこの“怪物”に太刀打ちできるというのだろうか。
[『ユダヤが解ると世界が見えてくる』112~113ページ]
ユダヤ、財閥、ロックフェラー、支配……。魔法のようなキーワードが並んでいます。そして、要所要所に数字がちりばめられ、畳みかけてきます。人は数字を乱打されると、弱いものです。しかも「ロックフェラー家の富に関する米国議員のための報告書」などという証拠までついています。
当時13歳の私は「これが大人の世界だ!」と感動したものです。すっかり、社会のことを知った気になりました。
「この人ならば、本当のことを教えてくれる!」そう思った私は、宇野さんの本を買い込み、貪るように読み漁りました。
「この世を支配しているのはユダヤのロックフェラーだ!」と真実を知った気になり、宇野さんを信じ、宇野さんの本を読み、その内容を頭に叩き込みさえすればよいと考えていたのです。
しかし、ある日の暮れ方のことでした。いつものように「ユダヤ」関係の本が出ていないか、香川県丸亀市の宮脇書店を物色していた時の話です。題名だけで衝撃を受ける本に出会いました。
『ユダヤを操るロックフェラー帝国の野望─世界経済支配の最終シナリオは完成した』(久保田政男:著 徳間書店/1987年)
何!? ユダヤを操るロックフェラーだと!? ロックフェラーはユダヤではなかったのか?