本を買う時に参考にするものは人それぞれ。書店員による手書きのPOPだったり、ネット書店のレビューやテレビで紹介されていたりなど、本好きであれば誰しもが思い浮かべるものがあるだろう。書評を数多く手掛ける印南敦史氏に、最近読んだ本について、そして数多くの書評を手掛けることで分かってきた「売れる本」「話題になる本」の特徴を語ってもらった。

※本記事は、印南敦史:著『書評の仕事』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。

おもしろい人の「個性=本」

「売れる本」「話題になる本」とはどういう特徴をもった本でしょうか。

端的にいえば「売れる本」は、他の人にはない個性を備えた「おもしろい人」による、その人にしか書けない本だということです。

そして、それが多少なりとも読者に響いたとき、その本は「売れる本」「話題になる本」となっていくわけです。 

もちろん、出版社やPR会社が仕掛けたパブリシティ(売り込みを受けての報道)効果で売れるというようなことも往々にしてあります。もちろんPRのすべてが悪いわけではなく、結果的に読者にためになる、“よいPR”も確実に存在するわけですが。 

それにこういう仕事をしていると、「消費者の視点はなかなか鋭いなぁ」と実感することが少なくありません。テレビなどのマスコミに感化され、流されるままに買っている人も、いないわけではないでしょう。でも、だからといってすべての消費者がそうではないのです。 

人生経験などから「最適な一冊」を選んでいる

 そもそも、本にかける1200〜1500円というお金は、決して安くはありません。

マスコミの情報だけを頼りに買ってみたら損をしたというようなことも充分に起こりうるのですから、多くの人々はそうならないように用心し、その本が自分に必要であるかを考えたうえで購入するわけです。 

そのとき重要な意味を持つのは、それまで生きてきたなかで身につけた知識、考え方、人生経験など、その人なりのなにか。それらを頼りにし、書評家やパブリシティからの情報なども“参考”にしながら、自分の判断で最適な一冊を選んでいるに違いないのです。

自分の人生経験などから「最適な一冊」を選んでいる イメージ:PIXTA

そして、そうやって選ぶ人が増えれば、結果的にその本は「売れる本」「話題になる本」へと成長していくことになります。

つまり「売れる本」には売れるだけの、「話題になる本」には話題になるだけの“正当な”理由があるのです。

「売れる理由」や「話題になる理由」は予測できないものであるだけに、書き手も出版社も悩み続けるわけですが、そうしたバックグラウンドとしての根拠があるからこそ、その本は売れ、話題になるのです。 

そして、書き手は「なにをどう感じて読者は本を買ってくれるのか」ということを忘れるべきではなく、そのために、ある程度の純粋性を持ち続けるべきなのではないかとも思っています。