凛と建つレムニスケートの幾何学
しかし、この斜面に凛と建つ姿のなんと美しいことか!
エッジの効いたファサード※2が醸し出す、静謐(せいひつ)とした雰囲気に心が踊ります。
まず階段がかっこいい!! 重々しく塗り固められたコンクリートの階段に、取り付けられた華奢(きゃしゃ)な手すり。縦に細かく線の入った木製の扉が、外壁の横方向のラインに対し軽やかなアクセントになっています。
そして、やはり建築家の妙技は、斜めにカットされたドア周りの壁ではないでしょうか。必ずしも機能に関わらない小さな操作が、絶大な影響力をもってその空間を唯一無二のものにするのです。我々はこういったあらゆる情報から、建築、ひいてはその空間と対話することができます。それを促すのが建築家の一つの職能といっても良いでしょう。
入り口は、おそらく最初に人が建物と対話することになる特別な空間ですが、この建築のそれは素晴らしいです。内部への期待を高め、ドアノブに手をかけます。(このドアノブもいちいちカッコいい)
浮遊する床と隙間の宇宙
思いのほか分厚いドアを開けて中に入ると、木の表情が前面に出ていた外観とは打って変わって、神秘的な雰囲気に包まれていました。
壁の上部をぐるっと取り囲むように開けられた開口から降り注ぐ光が、銀色に塗装された内壁に反射し、鈍い光を放っています。細い部材を組み合わせてデザインされた家具には隙間が多く、明るい木が使われることで軽やかな印象を与えています。
なにより美しいのは、密度高く空間を取り囲む華奢な構造体です。秩序だった柱と、内壁の間にあるスキマがもうたまりません!!(ここに宇宙がある…)
そして床の周りはわざと一段低くなっており、そこに柱が吸い込まれるように落ちているのです。これらのきめ細かい心配りにより、床・壁・柱がそれぞれ独立して存在感を放ち、どこか不思議な“浮遊感”とも呼べる雰囲気を内部に生んでいます。
決して広くなく、天井もさほど高くないにも関わらず、ある種のダイナミックさを演出する空間が実現している。これこそ、制約の中で何倍もの価値を生み出すという、建築家のクリエイティビティが遺憾なく発揮された快作と言えるのではないでしょうか。
しかし、見所は構成だけではありません。細部に見惚れてスケッチをする私は、上部をぐるっと取り囲む開口と銀色の壁の演出に、私はまだ気が付いていませんでした。