「アドラー心理学」は、現代の人々にとって要となる思想として広まっていますが、そもそもアドラー心理学ってなんだろう、という人もいるかもしれません。アドラー心理学初心者でもわかるように3つのポイントで解説。中核となる「共同体感覚」は、他者を仲間だと見なし、そこに「自分の居場所がある」と感じられる感覚のことです。

※本記事は、平本あきお/前野隆司:著『アドラー心理学×幸福学でつかむ! 幸せに生きる方法』(ワ二・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「仲間感」が高くなると幸せと感じる

ひとくちに「アドラー心理学」と言っても、その解釈はさまざまです。本も、いろいろなものが出版されていますが、日本で現在語られているアドラー心理学のほとんどは、1980年代初頭の日本にアドラーを紹介した精神科医・野田俊作先生の考え方が基礎となっていると言っていいでしょう。

アドラーの研究テーマはその時代によって変わりました。大きく前期、中期、後期に分かれています。簡単に紹介すると、次のとおりです。

前期アドラー:劣等感の補償

ぜんそくや障害など、器官が劣っていること(器官劣等性)と心の関係。

中期アドラー:権力への意志

劣等感を克服する「負けたくない」「勝ちたい」「上を目指すぞ」という意志の研究。ニーチェの影響、フロイトへの対抗心などがあったと言われる。

後期アドラー:共同体感覚

ドイツ語でGemeinschaftsgefühl(ゲマインシャフツゲフュール)。ゲマインシャフト(共同体組織)は、ゲゼルシャフト(利益社会)とは違う概念。今風に言えば「仲間感」。共同体感覚が高いほど人は幸せである、と考える。

▲「仲間感」が高くなると幸せと感じる イメージ:プラナ / PIXTA

アドラー心理学の中核と言われ、現代アドラー心理学の土台となっているのは、この後期のテーマである「共同体感覚」です。

アドラーが考え出したこの概念はアメリカに渡り、後継者の1人であるルドルフ・ドライカース、バーナード・シャルマンらによって発展します。そのシャルマンの下で学んだ1人が、先に紹介した野田俊作先生です。

日本のアドラー研究者のほとんどがその影響を受けています。野田先生は共同体感覚を自己受容・他者信頼・貢献感の3つの要素で定義しました。それぞれについて説明しましょう。

共同体感覚を構成する3つの要素

◆自己受容

自分を受け入れること。自己承認とは似ているようで、まったく違う。自己承認は、自分の良いところを見つけること。自己受容は、自分の良いところも、ダメな欠点も含めてOKを出せること。

<自己受容のできていない例>

周囲は認めているのに自分では「醜い」と思っているトップモデルは、自己受容ができていない状態の一例。客観的な評価や結果にかかわらず、まわりにどう思われていても「私は自分の容姿が気に入っています」という人のほうが幸せでいられる。

◆他者信頼

まわりの人を信頼できること。

他者信頼のできていない例

仕事がバリバリできる中小企業の経営者が「顧客は、私のことは信頼してくれるけれども、他の人のことは信頼しないだろう。別の担当者に任せて、数字が落ちたら大きな損害だ」と部下を信頼できない。どんどん自分の負担ばかりが大きくなってしまい、部下も育たない。

◆貢献感

まわりの人の役に立てているという感覚。

<貢献感が損なわれた例>

定年退職した男性。会社勤めの終盤に体調を崩しがちだったので、家では「これまでご苦労さま、ゆっくり休んでください」と奥さんや子どもが親切になんでもやってくれる。「ありがたい」とうれしい気持ちがあったが、貢献感がないので、幸福度が下がってしまう。

この場合、ちょっとした植木の水やりなどを家族から頼んで「お父さん、ありがとう。おかげで植木が元気で、私たちも気持ちがいい」などと声をかけることで、貢献感を高めることができる。

▲定年退職後に貢献感がなくなってしまうケースも多い イメージ:マハロ / PIXTA

この3つが高ければ高いほど、共同体感覚が満たされ、人は幸せを感じるというのが、後期アドラーの立場です。

逆に言えば、心の病やさまざまなトラブルは、この3つが低いことによって起きています。ですから、この3つを高めれば、多くの問題が解決できると考えられるのです。