W★INGに名を刻んだ保坂秀樹さん捧げる一冊に! 

W★INGフェアは9月5日まで開催中で、現在はさまざまなレスラーや関係者のサイン本も追加で大量入荷されているという(もちろん数に限りアリ!)。書店だけではなく、Amazonでも発売日を前に在庫が空っぽになってしまう、という異様な売れ行きで、まるで30年目にして「W★INGブーム」が到来したかのような勢いすら感じる。

――「じつはこの30年間、W★INGだけにスポットを当てた書籍やムックって一冊も出ていないんですよ。看板レスラーだったミスター・ポーゴや、名物マネージャーのビクター・キニョネスも亡くなってしまい、この30周年のタイミングで出版できなかったら、もうチャンスはないな、と。コロナ禍で取材が滞ってしまったこともあり、本当にギリギリのところで発売に間に合った感じですけど、令和の時代にここまで情念がダダ漏れになっている本も珍しんじゃないですかね? 本当にどうかしている一冊ですけど、これこそがまだ昭和の空気感が色濃く残っていた平成初期ならではの熱さだと思うし、小さな組織が大きなムーブメントを起こすときの熱量って、凄まじいものがあったんだな、とあらためて認識できました」(小島)

W★INGといえば、“ミスターデンジャー”こと松永光弘が、後楽園ホールのバルコニー(高さ8メートル!)から決死のダイブを敢行したことで、一躍プロレスファンの注目を集め、その後、リングの周りをガスバーナーから噴射される炎で囲んだ「ファイアーデスマッチ」、リング下に1万5000本の五寸釘を敷き詰めて、どちらかの選手が釘の上に転落するまで試合が終わらない「スパイクネイルデスマッチ」、さらには会場の照明をすべて消して、リング上がまったく見えない状況で試合をおこなう「月光闇討ちデスマッチ」など、過激かつ奇想天外な試合の数々で「W★INGフリークス」と呼ばれるマニアックなファン層を熱狂させまくった。

当時、週刊プロレスのW★ING担当記者として、それらの試合を現場で取材してきた小島にとっても、その歴史を一冊の本にまとめるのは「青春の決着」だった。そして、当時は小島も知らなかったという舞台裏での物語も、当時の社長、リングアナやレフェリーという最前線で活躍してきたスタッフたちの証言で次々と明らかになり、実際に闘ってきたレスラーたちも30年前のことを、まるで昨日あったことのように生々しく、そして鮮明な記憶で語りまくっている。当時、ちょっとでもW★INGに興味があった方であれば、これはもう必読の一冊である。

証言者のひとり、松永光弘は昨年『オープンから24年目を迎える人気ステーキ店が味わったデスマッチよりも危険な飲食店経営の真実』(小社刊)を出版して、大きな話題を集めた。『W★ING流れ星伝説』でも松永の試合写真が表紙を飾るなど、まさに主役のひとりとなっているのだが、プロレスラー時代の苦悩をW★ING本で読んだあとに、ステーキ本を読むと、また違った味わいを感じることができるかも……ぜひ、この機会に2冊併せて読んでいただければ幸いだ。

――「僕が今まで出版してきた本のなかで、もっともブ厚い一冊になりましたけど、旗揚げ戦から最終興行までをしっかりと時系列で追っているので、読み物としては、かなり読みやすくなっているんじゃないかなと思います。ひとつの団体がブームを起こし、そこから転落していって、最終的には終焉を迎えるという話なので、一歩間違ったら、めちゃくちゃ読後感が悪くなってしまう。だから、そうならないように本の終盤にはいろいろな仕掛けをしておきました。こんなご時世ですけど、まだバブルの残り香がしていた“あのころ”を体感しながらページをめくっていただければ、と思います」(小島)

そんなタイミングで思わぬニュースが飛びこんできた。W★INGでプロレスラーとしてデビューし、のちにFMWなどで活躍したプロレスラーの保坂秀樹さんが8月2日にがんのため逝去したのだ。49歳という若さ。あまりにも早すぎた。

――「ちょうど完成したばかりの本を手渡すために、金村ゆきひろと一緒にいるときに訃報が飛びこんできました。もう2人で言葉を失うしかなかったですね。もちろん闘病中であることは知っていましたけれど、W★INGだけでなく、FMWでもずっと一緒だったので……。今回の本では、とにかくW★INGに関わったレスラーの名前をすべて載せたくて、巻末に全試合記録を掲載したんです。だから保坂選手のデビュー戦から3か月間の全記録もここに載っています。保坂選手は3カ月しかW★INGに在籍していなかったんですけど、そのあとも団体に残ってほしかった、という当時の関係者の証言も本文に入っているんですよ。すべてのレスラーの青春を刻みこもうと意識しての構成ですが、まさか、こんな報せを受けることになるなんて……心よりご冥福をお祈り申し上げます」(小島)

平成初期のカルチャー史を令和へと伝える熱くてブ厚い一冊には、たくさんの青春と涙、そしてリングに生きた証がギッシリ詰めこまれている――。