285億以上もある特殊詐欺の被害金額

いまの日本で、高齢者は詐欺を主とする犯罪の格好の餌食となっている。犯罪者からすれば、高齢者は一番だましやすく、現金を奪い取れることのできる相手だ。

典型的な例が、特殊詐欺(通称「オレオレ詐欺」)だろう。第三者が自宅に電話をかけて、子どもや孫のふりをして「俺だ。事故を起こしてしまったんで、お金を貸してほしい」などと言って金銭をだまし取る。

電話を受けた人は「子どもが困っているならすぐに助けなければ!」と考えてお金を用意する。そして電話の人間の指示に従って、ATMから別の人の名義の口座に多額のお金を振り込んだり、家に取りにきた「同僚」や「友達」を名乗る人に現金を渡したりする。しかし、それは真っ赤な嘘で、あとで気がついたときには電話も通じず、お金だけが消えている――。

▲高齢者は詐欺を主とする犯罪の格好の餌食に… イメージ:PIXTA

特殊詐欺は、2000年ごろから急増しはじめた。最初は、電話の主が「俺だよ、俺」と名乗ることからオレオレ詐欺と呼ばれた。だまされる人があとを絶たず、手口も多様化したことで、名称も「特殊詐欺」とされた。

最近の特殊詐欺は巧妙化していて、親族以外の人物を名乗ることが多い。電話口で、警察官や銀行員を名乗って、こんなふうに言う。

「あなたの銀行口座が狙われている可能性があります。最大で300万円が抜き取られているかもしれません。すぐに保護する必要があるので、いまお持ちのカード番号と暗証番号を教えてください」

本人は驚いて番号を教える。犯人は電話を切るや否や、そのカード番号と暗証番号で奪えるだけのものを奪う。

特殊詐欺の被害金額は、判明しているだけで285億2335万円。別の手口による詐欺も含めて、判明していないものを合計すれば、被害金額は膨大な額になるはずだ。

どういう人たちが被害にあっているのだろう?

特殊詐欺の被害者の年齢を見てみると、70歳以上が79パーセント、65〜69歳が6.8パーセントとなっている。

64歳以下は約15パーセントにも満たない。実に、被害者の8割以上が65歳以上の高齢者だと考えられる。

裕福な高齢者への若者からの報復か?

一方、高齢者を狙う犯罪者はどんな人たちなのか。特殊詐欺は、下図のような構造で行なわれている。

▲詐欺グループの構成図 出典:『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』

全体を主導している主犯格は、暴力団員や半グレと呼ばれるような人たちだ。彼らが地元のネットワークをつかって後輩らに呼びかけて、電話をかけるグループのリーダーや、お金を引き出す「出し子」と呼ばれる役や搬送役のリーダーをやらせる。

そして実行犯のリーダーは、足がつかないようにネットや人の紹介で実行犯を集めて手を汚させる。

実行犯のリーダーは、主犯格のグループの存在を明かさないし、実行犯たちに自分の本名や連絡先も教えない。場合によっては顔をあわすこともなく、SNSだけで指示をする。したがって、もし実行犯が警察に逮捕されるようなことがあれば、トカゲのしっぽのように末端の人間を切り捨てて逃げる。

組織の中心人物が捕まらないような仕組みになっているのだ。

また、主犯格は警察の手の届かない海外に拠点を置くこともある。フィリピン・タイ・カンボジア・中国といった国でマンションや一軒家を貸し切り、そこをアジトにして日本へ電話をする。インターネット回線をつかえば、電話料金なんてただも同然だ。2019年には、フィリピンで特殊詐欺をしていたグループの末端メンバー36人が拘束されている。

特殊詐欺で逮捕された加害者たちの年齢を示すのが下図だ。10代から20代だけで7割を占めているのがわかるだろう。

▲2008年(1~5月)に検挙した容疑者の年齢別構成比 出典:『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』

実際に少年院へ行けば、特殊詐欺で捕まった10代の子どもたちがウヨウヨしている。

これが示しているのは、実行犯は10代から20 代、リーダーや主犯格でさえ20代〜30代という現実だ。

加害者の年齢層と被害者の年齢層を比べて、何に気づくだろうか。加害者は孫世代の10代~20代。被害者は親の年齢を飛び越して祖父母の世代になっている。つまり、特殊詐欺には、孫世代が祖父母世代からお金をだましとっている構図がある。

若者によって高齢者がターゲットにされているのは、特殊詐欺に限らない。空き巣・恐喝・強盗・傷害なども同様だ。

犯罪全般においても、被害に遭う高齢者の比率は増加の一途をたどっている。被害者の割合が増加しているのは、少子高齢化による高齢者の人口増が原因ではなく、格好の標的にされているからだ。――日本は先祖崇拝のお年寄りを大切にする国。そんなふうに言われていたのは、昔のこと。

こういう現実を目の当たりにすると、若者たちが高齢者を食い物にしているのがわかるだろう。