「逃げ切り」年配世代と「冷や飯食い」若者世代
なぜ、こうした現象が起きているのか。背景には、世代間格差の問題がある。
バブルの時代を駆け抜けて資産をつくることができた高齢者と、失われた20年〔1990年代頭から2010年代頭〕のなかで生まれ育ってきた若い世代。これが世代の大きな断絶となって、社会問題を引き起こしているのだ。なぜこういうことが起きているのだろう。
いまの高齢者世代には、資産をつくってバブルを逃げ切った人たちが一定層いる。しかし、バブルが崩壊した1990年代に、日本の多くの企業、逃げ切った高齢者世代がしなければならなかったのは、未来に向けた新しい体制づくりだったはずだ。
企業が10年後、20年後を本気で考えれば、高い給与を得ながら生産性の低い年配の社員を切り、有望な若手を社員として雇用しなければならなかった。優秀な若い人材こそが財産のはずだ。
しかし現実の対応は違った。企業はすでにいる社員の雇用を優先して守り、新規採用を減らして非正規雇用に重きをおいた。
すでに役職についていた年配の人たちが、企業や社会や若者の未来より、10年後の定年まで自分たちが利権を握り、生きていけることを大事にしたためだ。
その結果、年配の社員は定年まで高い給料をもらい、資産を蓄えて退職することに成功した。
一方、彼らの子どもにあたる若者は、正社員として雇われる機会を失い、収入もスキルも手に入れることができなくなった。
年配の人たちは逃げ切り、若者世代は冷や飯を食わされたというわけだ。
こうしたことが、経済的に余裕のある高齢者の層をつくり上げた。
祖父母世代の6割以上が、1000万円以上の貯蓄を持っているとも言われている。この層は年金を受給しており、株などの金融商品から利益を得ていたりする人も含まれている。
これに比べて若者の資産はどうか。ある調査では、調査対象の40代の2人に1人は金融資産がないと回答した。“ある”と回答した人も、およそ2人に1人が400万円以下となっている。40代といえば、社会でもっとも活躍しつつ、お金のかかる世代だ。
住宅ローンなどはもちろんのこと、子どもが高校や大学へ進学すれば、私立高校なら3年間で平均300万円、私立大学なら4年間で平均500万円ほどがかかる。400万円の貯金なんてあっという間に消えてしまうわけで、大勢の人たちがなんとかやりくりして日々を乗り越えていると言ってもいいだろう。
高齢者が築いた資産でゆとりある生活をする一方で、社会の中心を担っている世代が経済的に困窮する。世代間格差とは、まさにこうした世代の違いを示す言葉だ。
※本記事は、石井光太:著『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。