2020年の法改正で統一された酒税

ビールの種類は世界で100種類以上あると言われます。生産している国は150か国に及び、銘柄は1万種を超えます。日本でも大手ビールメーカーの製品だけでなく、いろいろな種類のビールが作られていますが、日本で地ビールを作れるようになったのは最近のことです。

▲ビールの種類は世界で100種類以上ある イメージ:PIXTA

酒類の製造や販売は免許制です。免許の取り扱いや酒類の定義、分類などは酒税法に定められています。平成6年(1994)の酒税法改正までは、地元の小さな酒蔵がビールを作ることは規制されていました。酒税法には、いろいろな種類のお酒について年間の最低製造量が定められています。定められた量を下回る製造量の場合は免許が受けられません。

ビールの場合は、改正前の年間最低製造量が2000㎘と定められていました。大手メーカーでなければ、なかなか製造が難しい量です。この基準が法改正で60㎘に大きく引き下げられたことで、大規模な事業者以外の酒蔵でもビールを作って販売できるようになったのです。

現在では、全国各地で多種多様なビールが作られ、消費者も好みに合わせて楽しめるようになっています。大きな企業の作っている種類だけでは、趣味嗜好に必ずしも合ったものが手に入らないという人でも、自分の好きなものが選べるようになったのです。

年間最低製造量の引き下げは、規制緩和です。大手でなければ難しかった事業に新しい事業者がどんどん参加できるようになったことで、新しい製品が生み出されたということです。

全国の地ビールメーカーが集まった団体であるJBA(全国地ビール醸造者協議会)は、地ビールを次のように定義しています。

  1. 酒税法改正(1994年4月)以前から造られている大資本の大量生産のビールからは独立したビール造りを行っている。
  2. 1回の仕込単位(麦汁の製造量)が20㎘以下の小規模な仕込みで行い、ブルワー(醸造者)が目の届く製造を行っている。
  3. 伝統的な製法で製造しているか、あるいは地域の特産品などを原料とした個性あふれるビールを製造している。そして地域に根付いている。

    出典:全国地ビール醸造者協議会 http://www.beer.gr.jp/local_beer/

最初に紹介した「ビール純粋令」が原料を限定しているのに対して、地ビールはいろいろな原材料を使って作れることが特徴です。製品そのものの規制という意味では、ビール純粋令という500年前の規制強化にならって作られてきたものが、日本でようやく緩和されたことになります。

地ビールは規制緩和の成功例ですが、むしろ問題は酒税の面です。安定的に販売量のある嗜好品なので、しょっちゅう増税されています。また、販売量の伸びている酒類には増税し、売れ行きが下がってきたものは減税するといったことも行われています。

特に1990年代から2000年代にかけてビールに対して増税が集中します。ビールメーカーは、麦芽使用量を規定値以下に抑えた発泡酒を開発して対抗します。ところが、発泡酒の人気が出て売れてくると発泡酒が増税され、今度は麦芽を使わない「第三のビール」が開発されるという、増税と開発のいたちごっこになりました。

このため、ビールやビール系飲料で3種類もの税額ができ、令和2年(2020)の酒税法改正でようやく統一されたところです。

▲今年の夏は家でビールを楽しんだ人が多いことだろう 出典:PIXTA