日本のGDPを高め国民全体が豊かになる方法

加藤 EVについての問題は多岐にわたります。

私が特に不安に思うのは、このカーボンニュートラルや脱炭素の問題が、再エネ賦課金として電力料金に跳ね返り、各家庭にも大きな負担になるという点です。

またカーボンプライシング(いわゆる炭素税)みたいな話も出てきているじゃないですか。ただでさえ厳しい環境規制と税負担を強いられている企業の生産活動に、さらに負荷がかかることです。

岡崎 炭素に価格をつけて、CO2を排出した企業や家庭にお金を負担してもらおうって話ですね。

池田 脱炭素がこれからより身近な問題になっていくということです。

加藤 実際に、豊田会長が記者会見のなかでも仰っていましたが、カーボンニュートラルな脱炭素社会になると、いったいどういうことが起こるのか?

まず発電でCO2を出さないことを考えていくと、電源が原発の割合が高いところ(国)で生産をすれば、CO2の排出が少ないということになります。

そうなると、このままでは“日本でものづくりをすることができなくなる”ということが考えられますよね。

池田 脱炭素のためには、原発か再生可能エネルギー(太陽光/風力/水力等)を使わなければ意味がありません。

日本の原発+再生可能エネルギーって25%もないくらいで、75%は化石燃料(石炭・石油・天然ガス)による発電なわけですよね(2020年のデータ)。

でも、そのなかにはCO2を回収するなど、日本が発明したCO2排出量をものすごく少なくしたシステムもあるんですよ。

岡崎 あまり評価されていませんけどね。

池田 そんな涙ぐましい努力をしている日本と違って、再生可能エネルギーが100%に近いノルウェーなどは、人口も少なくエネルギー自給率が700%とかいう国です。ほとんど水力発電だけで賄うことができてしまうんですね。

北欧諸国はよく脱炭素優等生として紹介されますけど、世界的にも恵まれた特殊な環境がそうさせているのであって、ほかの世界の国々はそんなことはできないんですよ。

岡崎 日本の場合、ダムの適地はすでに開発され尽くしていますし、太陽光発電にしても国土面積当たりの太陽光発電設備容量は、主要国のなかではすでにトップクラス。平地面積でみれば2位のドイツの2倍とダントツです。

小泉氏はもっと増やすと言っていましたが、じゃあ土地の確保はどうするのか。山林を切り拓いて太陽光パネルを設置するのは、治水面のリスクを含め本末転倒の話でしょう。

頼みの綱の洋上風力発電も、技術面やコスト面で実用化はまだまだ遠いのが現状です。

加藤 海外に工場を移して、マーケットで生産するほうが、人件費や電力など生産コストも安いし、物流のコストも削減できます。

だけど、日本でものづくりを続けていってもらわないと、私たち国民の暮らしが維持できないわけです。豊かにならない。

今や、どんどん自動車産業は海外に出ていっていますが、これからもっと日本から出ていって、海外で生産するようなことになったら、日本の経済はガタガタになってしまうでしょう。

池田 例えば、トヨタは国内工場では年間300万台の生産を死守すると言っています。今、国内で売られているクルマは140万台ぐらいなので、半分以上は海外に輸出しているんですね。

でも、それをやっていると、実は為替で決算ごとに大損してしまうんです。へたをすると1000億円レベルの損です。

それにも関わらず国内で作るのは、国内の雇用を死守すること、それから製造というのはやっぱり技術産業なので、その技術をちゃんと国内で養成して維持していくためには、300万台のレベルを維持しないと無理だよっていうことを、豊田社長は決算のたびごとに説明しているわけですよ。

岡崎 地方都市の豊かさは製造業が支えている。(菅政権が推進した)観光業の比ではないってことですね。

加藤 そうです。組み立て工場だけではなく、自動車メーカーには多くの協力会社があり、中小の下請け部品メーカーが地方経済を支えています。地方の財政基盤にも直結しています。その地域の福祉やインフラにも影響しますよね。

岡崎 地域の総生産は、国民全体の豊かさに直結するってことですね。

加藤 はい。日本国内で工場が生産を続けている限り、国民の豊かさと直結します。

岡崎 窓ガラスや全ての自動車のパーツまで含めれば、ものすごく多くの大小さまざまな企業が関わる産業であって、メーカーが組立工場を動かしているだけではないんですよね。

▲自動車産業には大小さまざまな企業が関わっている イメージ:PIXTA

EV化で失われる日本の雇用550万人!?

加藤 2021年の豊田会長の年始の挨拶では、自動車産業で働く550万人の人々を鼓舞する熱いメッセージを送られていました。550万人というのは日本の雇用者数の10%です。

そして、我々は日本の総生産の15%を支えているんだということを仰っていました。自動車産業がこれからも日本国内で頑張り続けていただかないと、私たちの未来は良くならないのです。

池田 我々がなぜ今、EVの話をしているのかといえば、このEV化の議論の進めかたによっては、日本でのものづくり産業が途絶えるかもしれない、ということですから。

加藤 そうです。あるのはただ危機感のみ。

池田 この脱炭素とEVの問題を、これからみんなでどう議論をして、どう着地させるかということに、我々の未来がかかっているんですよ……というのが、この『EV推進の罠』の議論を始めるに至った、最大の理由なんですね。 

▲脱炭素とEVの問題は我々の未来がかかっている

※『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』は、インターネット番組『EV推進の噓』(未来ネット)を元に、再編集を行ったものです(2021年1月〜6月配信。以降YouTubeで無料配信中)。