カブール空港で移動する輸送機に多くの群衆が群がり、離陸後に人のようにも見える何かが落下する様子を映した動画が、日本でも大きな話題となりました。この衝撃的な動画が拡散された背景には、一体何があったのでしょうか? 地上波では絶対に伝えられない国際情勢の事実を内藤陽介氏が解説します。
アフガン撤退はキューバ危機と重なる?
いくら無能なガニー政権であっても、2021年内いっぱいは、なんとか持ちこたえるだろうと思っていた米国と関係諸国にとって、撤退完了前の政権崩壊は頭の痛い話になりました。
しかし、現実にそうなってしまったからには、なりふり構わずに撤収を進めざるを得ません。当然のことながら、威風堂々と引き上げる余裕などあろうはずはなく、カブール空港で移動するC-17輸送機に多くの群衆が群がり、離陸後に輸送機から人のようにも見える何かが落下する様子を映した動画がネット上で拡散されるなど、世界中の人々が「米国は“ほうほうのてい”でアフガンから逃げ出した」という印象を持つようになりました。
米国がアフガニスタンを切り捨てたこと自体は、米国の国益にとってはマイナスにはならず、むしろプラスの面が多いと言えます。しかし、米国の威信や情報戦という点では「米国は逃げた」という印象が、大きなダメージとなったことは否定できません。
これと関連して思い出していただきたいのが、米ソ冷戦時代の“キューバ危機”です。
1962年10月、ソ連がキューバに核ミサイルを持ち込もうとしたことで、核戦争寸前ともいわれたキューバ危機が発生しました。
結局、このときは、米国がトルコに配備していた中距離核ミサイルを撤去する代わりに、ソ連もキューバに核ミサイルを配備しないということで、米ソの妥協が成立します。この点において、米ソは“痛み分け”で、ソ連が一方的に譲歩したということではありません。
ところが、米国のケネディ政権は、国際社会に対して「米国が毅然たる態度を示したので、ソ連はキューバへのミサイル配備を断念した」という印象を与えることに成功します。その結果、ソ連と対立していた中国が、ソ連の“弱腰”を批判し、社会主義諸国における主導権争いに利用する、という状況が生まれたりもしました。
反米プロパガンダを展開する中国
今回の米軍のアフガニスタン撤退も、撤退そのものは必ずしも米国にとっては失策ではない(というよりも、むしろプラスの面が大きい)にもかかわらず、あたかも失敗に終わったかのような印象を少なからぬ人が持つようになってしまいました。その点において、キューバ危機(におけるソ連の立場)と似たような構図だと言えるかもしれません。
実際、中国は「同盟国を見捨てる米国」というプロパガンダを大々的に展開しており、西側世界における親米世論の切り崩しにかかっています。
わが国のネット言論などをみていると、そうした反米プロパガンダは、親中派と呼ばれている人々よりも、むしろ、かつてのトランプ政権の熱心な支持者で、バイデン政権にネガティブな姿勢を取り続けている“(一部)保守層”の「やっぱりバイデンではだめだ」という心性に深く刺さっているように見えてならないのが、なんとも皮肉な話です。