年金批判における野党の「成功体験」
最後に「野党」の存在が挙げられます。野党にとって「年金」というのは、政府を攻撃するには格好の材料なのです。
実際に成功体験もあります。2009年に政権交代がありましたが、その前の2007年にいわゆる「年金加入記録問題」が起こり、国会やマスコミにおいて、当時の社会保険庁の年金記録管理に対して国民から大きな批判が起こり、それが結果的に政権交代につながったと言えるからです。
事実、政権交代後の2009年12月に、当時の鳩山由紀夫首相は「記録問題をなんとかしてほしいという国民の期待が、政権交代の原動力になった」と発言しています。
ただ、その後の民主党政権の中枢に居た方々の発言を聞いていると、年金について誤解していたという反省ニュアンスの発言もありますので、必ずしも悪意を持って意図的に攻撃材料として年金問題を使ったわけではないかもしれません。
いずれにしてもマスコミや金融機関と同様、年金不安を言い募ることが自分たちの最大の利益である政権交代につながった、というのは事実と言っていいでしょう。
これらの三者は必ずしも悪意を持っているわけではなく、いずれも自分たちの利益を最大化することを目的に行動している、という共通点があります。したがって、彼らを責めても仕方ありません。我々が考えておかなければならないことは、我々自身が年金について正しい知識を持って彼らの思惑に惑わされないようにすることだと思います。
年金不安の理由は年金を知らないことではない
年金不安の理由は「年金を間違って理解しているから」です。最終的に私は年金不安の根本原因はここに行き着くのではないかと考えています。
もし年金不安の理由が「年金をよく知らないこと」であれば、これは割と簡単です。知らないなら教えてあげれば良いからです。“知らないこと”よりも厄介なのは“間違って理解している”ということです。
なにせ本人は、わかっているつもりですから、そもそもそれを覆すのが大変です。それに、人は自分が知っていることを否定されたり訂正されたりすると、あまり良い気分にはなりません。そこでいくら正しい知識を伝えようとしても反発されてしまう、つい最近まではそういうことの繰り返しでした。
私もいろんな雑誌やコラムで年金に関する記事を書くと、コメント欄の反発はすさまじいものがありました。殺害予告すら受けたことがあります(さすがにこれは警察に通報しましたが)。
ところが、最近は少し風向きが変わりつつあります。数は少ないものの、今まで年金についての正論を述べてきた方々の地道な努力が報われてか、マスメディアも論調に変化が見えます。
以前であれば、年金破綻論を唱える学者や評論家の人たちの言説が大きく取り上げられていましたが、最近はめっきりと減ってきました。残念なことに、彼らの話は根拠が弱く、エビデンスに欠けるところがありますので、取り上げられにくくなったのではないかと思います。