数十年以上前から政治関連のニュースで取り上げられ続けている「年金に対する不安」。将来の人生設計にも関わる問題であるから、人々が関心を持つのも当然であるが、一方で「かつて年金を問題視していた」現在の受給者からは、あまり批判の声があがらないという事実をご存じだろうか。経済コラムニストの大江英樹氏が解説する。

※本記事は、大江英樹:著『知らないと損する年金の真実 -2022年「新年金制度」対応-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

本当に年金はもらえるの? という不安

まずは「年金不安の正体」から話を始めたいと思います。私の知る限り、年金不安というのは昨日や今日に始まったことではなく、かなり以前からありました。私は現在69歳ですが、今から30年ぐらい前でも「将来、年金はもらえなくなるのではないか?」という不安が囁ささやかれていましたし、私自身も当時30代の後半で、年金に対する不安を持っていました。

▲本当に年金はもらえるの? という不安 イメージ:PIXTA

ところが、自分が実際に年金を受給する年齢になってみると、年金は破綻もしていないし、年金積立金も昔よりも増えています。にもかかわらず、今も相変わらず「年金不安」が世の中にあふれています。この理由は一体どこにあるのでしょう?

私は年金不安の理由は大きく3つあると思っています。

  1. 経験していないことだから
  2. 年金不安を煽る人たちがいるから
  3. 年金について間違って理解しているから

この3つです。

未経験者は不安だし、経験者は黙っている

まず、60歳未満の人のほとんどは実際に年金を受給した経験がありません。現在では公的年金の支給開始は65歳で、繰り上げれば60歳から受給することもできますし、年齢によっては60代前半で特別支給の老齢厚生年金を受給している人もいますが、60歳未満の人は老齢年金を受給していません。60歳未満の人の中に「自分はかつて一度70歳だったことがある」という人は1人もいません(笑)。つまり、老齢年金の受給に関して60歳未満の人は、誰もがこれから経験することなのです。

誰しも自分が経験していないことは不安です。「自分がその年齢になったら本当に年金がもらえるのだろうか?」と不安になるのは当然と言っても良いでしょう。したがって、60歳未満の人の多くは年金を不安に思っているし、そうコメントする人が多いのです。

では、実際に年金を受け取り始めた65歳以上の人はどうでしょう? 彼らが「いやあ、年金をもらってありがたいです。こういう制度があって良かったです」と言っているでしょうか? そんなことはありません。

人間は不安や不満があれば声高に唱えますが、満足しているときには何も言いません。高齢者がみんな「十分いただいて満足していますよ」などと言って、年金支給額が減らされたりしたら大変だと思うからです。だから、年金を受給している人たちは誰もがひっそりと黙っているのです。

▲受給している側も不安を抱えている イメージ:PIXTA

昔、年金不安を声高に叫んでいた評論家の人たちもみんな、今は年金を受給できる年齢になっていますが、ほとんどの人がもう何も言いません。

さらに言えば、一部の高齢者たちは「こんな金額では生活していけない。年寄りをいじめるな」と言い、若者は「お年寄りは“逃げ切り世代”で得をしているけど、自分たちはワリを食っている」と言います。

ところが、今や働いている人の9割を占めるサラリーマンをリタイアした人たちにとっては、生活していけないほど年金支給額が少ないというわけではありません。また、逆に高齢者の人たちは“逃げ切った”わけでも、得をしているわけでもないのです。

互いに不信感を持ったまま世代間対立が起きるというのは、決して好ましいことではありません。にもかかわらず、そうした対立を煽って年金不安を掻き立てる人たちがいるのです。