EV(電気自動車)の価格はなぜ高いのか? その理由はバッテリー(リチウムイオン電池)が高いからにほかなりません。実はEV本体の価格のおよそ4割がバッテリーといわれています。バッテリーの価格が下がらない限り、EVの価格も下がらず、EVの価格が下がらない限り、EVが普及することは無いのですが……。今後、バッテリーの価格は下がるのでしょうか?

加藤康子氏(元閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の有識者3人が、EVの未来について語ります。

▲電気自動車を通して見えてくる日本の産業や政治の問題点を徹底討論

※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「電池の価格は大量生産すれば下がる」の嘘

加藤 リチウムイオン電池の原材料には、主にコバルト・ニッケル・リチウムなどが使われているのですが、リチウムの供給元は南米のチリ。コバルトの供給元は、ほとんどがコンゴ民主共和国です。(ニッケルはインドネシアやフィリピン)

また、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が把握している限りにおいては、コバルトは、あともう20~30年で枯渇すると言われています。

NEDOでは「コバルトがなくなったらどうなるのか?」という議論もしていまして、コバルトを使わないバッテリーもできているそうですが、発火しやすいリスクもあるようです。

数年後、全車EV化をしたときには、コバルトなどの原材料は枯渇してなくなっている状態で、しかもその原材料のほとんどが中国に押さえられている、という状況になっているんですよね。

岡崎 大きな誤解をしている人が多いのですが、バッテリーって高いじゃないですか。
だけど、今後は「EVが世界中に増えて大量生産すれば、価格が安くなる」って、みんな言うんですよ。

でもね、例えば牛丼の値段って、牛肉とお米の原材料費以下には絶対にならないですよね。

ところが、コバルト・ニッケル・リチウムという資源は、基本的に全部有限なものなので、数が限られてくると、むしろ値段は上がってしまうんです。

池田 資源相場が上がっちゃいますね。

岡崎 だから、EVのバッテリーを大量生産したら安くなると言うのは嘘で、ある程度のところまでは下がるかもしれないけれど、その後は上がっていきます。

池田 競争率が高くなる。

加藤 経済産業省の自動車課の人に「コバルトがなくなったらどうするんですか?」と尋ねたら「日本の近海にある」って言われましたよ。

岡崎 あるかもしれないけど「いくらかけて掘ってくるのよ、海の底から」っていう話ですね。

池田 基本的に地下資源っていうのは、採掘コストとの見合いなんですよ。採掘コストが合うような新しい技術が生まれれば、次のステージに行ける可能性があります。それで埋蔵量も変わってきますよね。

逆に言えば、値段が上がれば、今までコスト的に無理だった技術が使えるようになって、バッテリー生産量はある程度は増えるはずです。

「石油がなくなる」って昔から言われていたのに全然なくならないのも、今まで掘れなかったようなところから掘ることができるようになったりとか、今まで使えなかったような質の石油を改質したりとか、そういう技術が進んだからです。

全車EVは非現実的な話

加藤 あらゆる角度から考えて、全車EVに舵を切るのは非現実的な話ではないでしょうか?

池田 バッテリー問題に絞って言うと、まず安くなることが前提のコストの問題が1つ、それから安全性の問題が1つ、それと性能の問題が1つ。

この3つがすごく微妙なバランスで成り立っているんですね。

▲『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』より抜粋

だから、コバルトをなしにすると、ある程度ローコストなバッテリーはできるかもしれないけれど、安全性・耐久性・性能が落ちてしまう可能性が高い。

今注目されているリン酸鉄系のリチウムイオンバッテリーがまさにそうなんですが、コバルトなしで同じ性能になるなら、最初からコバルトなんて使わないわけですよ。

そうすると、どうしてもエネルギー密度が下がってしまう。つまり、バッテリーを大きく重くするか、航続距離を我慢するかしかないわけです。

超長期的な可能性ならともかく、この数年の話をしているのに「新しい技術でできるんだ。できるはずなんだ!」という乱暴なまとめかたが、とにかくEV問題の全てに共通していることなんですよね。

加藤 安全性と性能が高い「全固体電池」が、次世代のバッテリー技術と言われていますね。

池田 はい。月に1回以上は、全固体電池の新しいニュースが入ってきます。

でも、実は今、全固体電池で困っているのは、そういう新しいアイデア出しのところではなくて、100万台規模のクルマの生産に向けて足りるだけの量産をどうやってするか、という量産技術がまだ確立できていないことなんです。まだ量産体制のための工場を作ることもできない状況です。

今後少なくとも5年とか、へたをすると10年かかるというところで、ずっと止まっているんですよね。

岡崎 バッテリーを「いかに安く作るか」というのも重要ですね。

今、一番安い中国製のバッテリーの値段は1kWh(キロワットアワー)当たり100ドルと言われています。

この価格、日本ではまだできていないです。

では、なぜ中国では100ドルでできるのか? 材料費を考えれば「いくらなんでもその値段は無理でしょ?」っていう疑問が、中国製バッテリーにはあります。

その秘密は、まず信頼性や安全性を極めて低い基準でOKとしていることと、中国共産党がバッテリーメーカーに巨額の補助金を出しているからなんです。

加藤 世界のマーケットシェアを取るために、中国共産党がバックアップしているわけですね。

岡崎 CATL(シーエーティーエル)っていう世界最大のバッテリーメーカーの本拠地は福建省寧徳市なんですが、寧徳市といえば習近平のお膝元ですからね。めちゃくちゃ近い関係なんじゃないでしょうか。

加藤 怖いですね。だから、EV化すると自動車産業が中国化していくわけですね。


※『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』は、インターネット番組『EV推進の噓』(未来ネット)を元に、再編集を行ったものです(2021年1月〜6月配信。以降YouTubeで無料配信中)。