ウキウキの金曜日、ブルー気分の日曜日

さて、休日の楽しみのメインはなんといっても、まずは「食」である。防大のご飯はマズい。また1学年時はゆっくり味わっている暇もない。10分以上ご飯のためにその場に着席していることはまずない。そのため「大戸屋の定食に泣きそうになった」という者もいるくらい、外でのご飯がおいしく感じられる。お酒を飲むことはない1学年だが、休日のエンゲル係数はかなり高めだろう。

金曜の夜からウキウキし始める1学年だが、日曜の夕方になると途端にその表情は暗くなる。ある者は「それまですごく楽しかったのに、坂を登り防大の門が見えてくると急に胃が痛くなった」と話す。

あるとき、横須賀から防大行きのバスに乗ると、乗り合わせた同期の女子がハラハラと涙を流していた。どうしたのかと聞くと「スーパーに私と同じ出身地の茄子があった。この茄子も私と同じところから出てきて、今ここにいるんだと思うと涙が出てきた」と答えた。

彼女は今もかなり優秀な幹部自衛官だ。日曜夕方になると気分がひどく落ち込む現象に「サザエさん症候群」なる名称がついていることも、防大で初めて知った。

2学年になると、私服外出や宿泊が許可される。私服外出がOKといっても、防大で私服を着るわけではなく、防大の近くに下宿を借りて私服を置き、そこで着替えることになる。

下宿は代々上級生から受け継がれることが多い。私の下宿は13人で一部屋を借りていたが、それぞれ校友会が違うので、互いに会うことは想像以上に少なかった。

カッター期間が終わり、初めて私服を着て外出をしたときの解放感は凄まじいものがある。人から見られない! 食べ歩きができる! お酒が飲める! 休日をこれでもかと満喫する。

1学年の頃はおしゃれのしようもなかったが、2学年になると休日には伸ばした髪をおろして化粧をする者も多く、パッと見では普通の女子大生と遜色のない雰囲気をまとう。私も街で同期に声をかけたところ、一瞬誰だか気付いてもらえなかったこともある。

▲ロシア語の教官とロシア料理を堪能。中央が筆者 [松田氏所有写真]

ウィッグをつけて帰省した1年生の夏休み

ところで、防大生の飲み方は総じて荒い。飲んで潰れてもそれもまたOKという風潮があり、土日の夜の校門には、泥酔した上級生を運ぶためのリヤカー部隊が待機していることもある。

防大には「教育・訓練」「校友会」「学生舎」という、いわゆる「三本柱」として大事にされているものがあるが、ある日の宴会では教官が「いいかお前ら、宴会の三本柱はビール、日本酒、焼酎だーーー!」と高らかに宣言したのを覚えている。

飲み会は、同期のみならず上級生や下級生とも絆を深める大事な機会だと体で教わってきた。ただ時代の流れで、今は「飲み会に来ない学生もいるし、来ても目上の人と話すのではなく同期だけでつるんでいる奴が多すぎる」と不満をこぼす者もいる。

宿泊は年間で回数の限度が決められていて、2学年は11回、3学年は16回、4学年は21回となる。長期休暇はこれにカウントされない。宿泊を申請すれば、基本的には校内にいることは許されない。

それでもたまにこっそり帰ってくる者はいるが「やった! 今日は上級生が誰もいないぞ!」と喜ぶ下級生に水を差すことにもなるため、なるべく外に出るのも上級生の役目だ。

普段どれだけよい関係を築けていたとして、自由を感じられない下級生の気持ちをおもんぱからなければいけない。ちなみに、外出せずに1日を校内で過ごすことを「腐る」といい、字面通りあまりいいこととしては捉えられない。

長期休暇は春季休暇、夏季休暇、冬季休暇がある。春と冬の休みが約10日間、夏季休暇が約1カ月と普通の大学よりはかなり短い。加えて、一番長い夏季休暇のうち、1〜2週間は校友会の合宿に当てられる。

そのため、地元に帰っても友人たちと休みが合わないという悲しい事態もしばしば起こる。「夏休みだね! 遊ぼう!」「ごめん、もう学校始まってる……」という会話は1度や2度ではない。

ちなみに、私自身は1学年時の帰省では、髪が短い状態で地元の友人と会うのがはばかられ、ウイッグを着用していた。地元の友人からは、防大でのエピソードを面白おかしく話すたびに「なんか楽しんでてごめん」「俺もがんばらなくちゃと思った」などと感想が寄せられることも多かった。

▲防大内のコンビニ。訓練に関係する用品も多い [松田氏所有写真]

※本記事は、松田小牧:著『防大女子 -究極の男性組織に飛び込んだ女性たち-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。