EV推進で得をするのは誰か……。EVを普及させたい人々の意図を読み解くことが、世界の自動車覇権の今後を読み解く鍵となるでしょう。トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーが開発するハイブリッド(HV)技術は、非常に高性能で燃費も良く、環境にも良い大変な優れもの。あまりに高性能なので、中国の技術者には真似ができないんだとか。そしてそれは欧州(EU)も同じ。日本のハイブリッド技術を目障りと考えた人たちが起こした「EV推進」とは?

日本経済と自動車のスペシャリストである、加藤康子氏(元閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の3人が、EVの裏でうごめく国や利権の争いを紐解きます。

▲電気自動車を通して見えてくる日本の産業や政治の問題点を徹底討論

※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

東南アジアでEVは普及するのか?

岡崎 EVで誰が得をするかという話ですが、海外に目を向けると、1番得をするのはズバリ中国です。だから、EVに急速にシフトするという発想は「エンジンなどの精密機械を作るのが日本にかなわない」「ハイブリッド技術も日本にかなわない」ということから「EVで行こう」という考えになったのです。

池田 EVは、エンジン車より部品点数が少なくて作りやすいというやつですね。

▲ハイブリッドカー イメージ:PIXTA

岡崎 基本的に、ヨーロッパ各国も同じ発想、同じ流れです。ハイブリッド開発に失敗しているんですよ、彼らは。ディーゼルでも失敗しています。そういう流れがあるので「世界的な潮流なんだから日本もEVをやろう」という考えは、向こうの罠に自ら飛び込んでいくようなものなんですよ。

日本の政治家は、日本の技術をしっかり理解して、正論をガツンと言って、日本のものづくりの真髄を強く主張しなきゃいけない。

池田 ジャパン・ウェイ(日本のやり方)をきちんと世界に向けて説明していくことが、政治家の本来の役割だと思うんですよ。「日本はハイブリッドに絞れ」と言っているんじゃないんです。中国も欧州もEVしか作れない。日本はEVもハイブリッドも作れる。日本は技術の幅が広いんです。

加藤 日本のことを海外に伝えたりアピールすることが、日本人は本当にへたですね。自らの良いところを積極的に売り込んでいく力が、これからは求められますね。

加藤 素朴な疑問ですけど、東南アジアを中心としたアジア諸国など、そもそも電力が足りないところでは、EVなんてとてもじゃないけど普及できないですよね。

岡崎 そうです。タイに行ったら、少年が道端でペットボトルに入ったガソリンを売っています。走っているスクーター用の燃料なんです。このように、世界中のどんな僻地に行っても、液体燃料というのはOKなわけですね。

加藤 むしろ日本の新車をどんどん買えば、アジアの空もきれいになるんじゃないですか?

岡崎 そうですよ。EVはゼロ・エミッションと言って「排気ガスが出ないからきれいだ」と言っていますけど、最新のガソリンエンジンは非常に優秀でね。例えば、大気汚染のヒドい都市、中国とかロンドンとかパリもそうだと思うんですけど、淀んだ街の中の特に汚い場所の空気よりも、排気管から出る排気の方がむしろきれいですから。

▲都市部の大気汚染 イメージ:PIXTA

最新の内燃機関は汚いどころか、走る空気清浄機と言ってもいいぐらいのレベルになっていますよ。大袈裟じゃなく本当です。

加藤 それはすごい。各メーカーの努力の結晶の賜物ですね。それなのに、日本の政治家は日本の良いところを見過ごして、中国と欧州、テスラの罠にはまっていっているんですね。

岡崎 誰のために政治をしているのかという話ですよ。

加藤 これは大きな問題ですね、日本の国民にとって。