テスラは砂上の楼閣でバブルの絶頂なのか?

加藤 株価10倍で、イーロン・マスクCEOは個人資産が世界1位ですから。

▲イーロン・マスクCEO 出典:ウィキメディア・コモンズ

※2021年4月の時点ではジェフ・ベゾス氏(アマゾン創業者)に次いで2位[『フォーブス』世界長者番付・億万長者ランキング(2021年版)]

池田 いやぁ、でも1年で10倍の成長って、普通に考えておかしいですって。

加藤 EVを年間50万台、製造している会社ですよね。

岡崎 トヨタの20分の1ですね。

池田 マツダの3分の1で、スバルの半分ともいえますが。

岡崎 地球のことを考えるんだったら、この資産をもうちょっといいところに使われたらいいんじゃないかなと思いますが(笑)。でも、イーロン・マスクってやっぱりすごい人だなと思うのは、EVという新しいものを、世の中に「これは必要なものなんだ」と“誤解”させて、あたかも本当のように見せているところですよね。

しかも、すごくカッコいいクルマを商品として提供して、年産50万台まで持っていったというのは、本当に素晴らしい経営者だと思います。でもね、一方で嘘もたくさん言っているんですよ。例えば「ロボ・タクシー」といって……。

池田 2020年中に100万台走らせるというやつですよね。

岡崎 そうそう。2020年には、自動運転の運転手のいないテスラ車をタクシーとして100万台走らせるって、2019年の4月に言っていたんだけど、今どうですか?

池田 うーん、1台も走っていない(笑)。

岡崎 当時はかなり自信満々でしたよね。でも、日本の政府やメディアのなかには、イーロン・マスクすごい、テスラすごい、EVすごい、テスラの自動運転はさぞかしすごいんだろう、日本の技術はどうせオワコン(終わったコンテンツ)だろう……と思っている人も結構いるようなんですが、これらは明らかに嘘なわけですよ。というか、ただのイメージ、虚像の上に成り立っている、まさにバブルですよね。テスラは砂上の楼閣なわけです。

加藤 まさしく、この株価もバブルじゃないですか。

池田 この株価がバブルじゃなかったら、何がバブルなんだという話ですよ。

岡崎 空売り筋は、株価が異常に高いから空売りするわけじゃないですか? で、予想より上がって大損した人も多いわけですけど。その空売り阻止を、GPIF在籍時の水野さん※注1がやったというのを、僕は新聞記事で読みましたけどね。そういう意味では、イーロン・マスクにはかなり感謝されているんじゃないですか。

EVの社会的な認知を進めたイーロン・マスク

加藤 EVにシフトした場合、日本の経済を支えている自動車産業には、どんな影響がありますでしょうか?

岡崎 急激な変化というのは明らかにマイナスなんですよ。例えば「2035年に、どのぐらいEVが走っているか?」とさまざまな機関が試算をしているんですけど、これね、やっぱりポジショントークの嵐。

日々ちゃんと機械を作っているエンジニアリング会社などは、わりと保守的で「EVはせいぜい30%ぐらいでしょう」と言っているんだけど、環境系のファンドを立ち上げている研究機関がやったところなどは「90%いってます」みたいな感じでね。

池田 EV推進派の方は、バッテリーの価格はこのままいくと、どんどん下がって、軽自動車でも通用するようになると言います。でも、それはなんの根拠もない乱暴な予測……というより願望であって、まったくあてにならないものです。

もう一つ、EVの議論をするときにちゃんと考えなきゃいけないのは、ステージ(段階)があるということなんですよ。EVというものが、このように環境技術として注目されているとき、日本の自動車メーカーなどは、それまで一生懸命に「どうやって軽くて小さくてエネルギーを食わない自動車を作ろうか」と、爪に火を点すような研究を日夜努力してやっていたんです。

加藤 まさに仰る通りですね。

池田 そこにイーロン・マスクという人が現れて。この人がすごかったのは「いやいや、電気はゼロ・エミッション(CO2ゼロ)なんだから、バッテリーを積めるだけ積んで、速くてスタイリッシュなクルマを作っちゃったら、めっちゃ普及するじゃん」と言い切ったことです。

普及をまず優先させたのです。EVの社会的な認知を進めるには、それはものすごいプラスだった。真面目な技術者だけではブレイクできなかったところを、イーロン・マスクがブレイクさせたというのは事実です。だけれども、もうそのステージは終わって、これからは本当に地球環境のことを考えなくてはなったとも言えます。

岡崎 だから、小泉進次郎さんは「環境問題をセクシーに」とか言っていたのか。イーロン・マスクの言っていたことと同じなんですね。

池田 同じですよ。

岡崎 テスラは、やっぱり“セクシー”で売ってきたクルマなんですよ、エコじゃなくてね。

加藤 なるほど。

岡崎 この2人って、感覚がすごい近いんじゃない? 実際、打ち合わせているかもしれないけれど。

池田 ええ、これに水野さんも含めるとだいぶシンクロするでしょう。ただね、これからはそうじゃないわけですよ。電気(電力)がゼロ・エミッションだったというのは普及のための方便だったわけだから、これからは本当に省エネルギーなやり方を考えていくべきでしょう。

※注1【水野弘道】
1965年生まれ。投資家。国連事務総長特使(2021年1月~)。テスラ社外取締役(2020年4月~)。住友信託銀行出身。元GPIF最高投資責任者(2015年1月~2020年3月)。元経済産業省与(2020年5月~2021年1月)。2021年1月28日号の「週刊新潮」では“菅政権の脱ガソリン車政策の黒幕”という記事となり話題に。