EV(電気自動車)といえばテスラ。そしてイーロン・マスクCEOの存在は際立ちます。世界で最もEVを売っているEV専門メーカーがテスラ社です(年産約50万台/2020年)。イーロン・マスク氏の発言や株価は、常に注目を集めますが、それを真に受けていいものか戸惑う人も多いのではないでしょうか?

テスラバブルに踊らされずに、真のEV産業の本質を見極めるにはどうしたらよいのか? 日本経済と自動車のスペシャリストである、加藤康子氏(元閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の3人が、EVの裏でうごめく国や利権の争いを紐解きます。

▲電気自動車を通して見えてくる日本の産業や政治の問題点を徹底討論

※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

EV推進におけるテスラの功績は大きい

加藤 世界のEVマーケットを誰が牽引してきたかというと、やはりアメリカのテスラ社と言えるでしょう。「テスラ」は、CEOのイーロン・マスク氏が世界一の大金持ちになったり、宇宙にロケットを飛ばしたり、カリスマ経営者として異彩を放っています。ところで、実際にお二人はテスラに乗られたことはありますか?

池田・岡崎 もちろんありますよ(笑)。

岡崎 僕はね、テスラは“ラブ&ヘイト”(愛と憎しみ=可愛さ余って憎さ百倍)なんですね。すごく素晴らしい部分もたくさんある。でも、すごく駄目な部分もたくさんある、というメーカーだと思っていて。全面的に支持はしないし、全面的に駄目だとも言わない。けれど、ただ一つ言えるのは、やはりとてもカッコいい、性能も高い……。

加藤 スタイリッシュですよね。

岡崎 しかも、EV以外は作っていないという、とてもわかりやすい商品ラインナップです。イーロン・マスクはこれまで歯を食いしばって、倒産しそうになりながらも、なんとか頑張って頑張って、ここまで持ってきた。すごいことだと思いますね。

池田 「EVが次の時代のクルマだ」という印象を作りあげてきたことについては、テスラの功績はすごく大きいと思っています。日本のメーカーが最初にEVに手をつけたときには、もっとしょぼくて、加速の性能も低かった。とにかく電費をケチった乗り物で「こんな貧乏くさいものに商品の魅力ないよね」と言われていた時代がありました。

加藤 ゴルフカートみたいなクルマのことですね。

池田 でも、テスラはとにかく大容量のバッテリーをドカンと積み込んで、1000万円以上の高い値段で内装も高級に仕立てて、驚くべき加速をしてみせた。人々に「アレ欲しい!」と思わせたんですよね。

岡崎 最初のクルマが「ロードスター」というスポーツカーで、2008年の発売でしたね。英ロータスからシャシーの技術供与を受け、そこにバッテリーとモーターを組み込むという、成り立ちとしては改造車の域を脱しないモデルでした。乗ってみても驚くような性能があったわけではありませんでしたが「ノートパソコン用のバッテリーを大量に積んで、スポーティーに走るEVに仕立てる」というコンセプトは、確かに新鮮ではありました。

池田 そういう意味では、このEV時代を切り拓いた功績は、まさにイーロン・マスクが考えた「EVはゼロ・エミッションなんだから、速くて、長距離が走れて、高性能なことが大事」であると。未来のプロダクツ、夢のある製品を人々に見せる作戦が大正解だった。

しかし、そのままでいいのかという次のフェーズに入っているのに、まだその前の成功体験から離れられないでいるのではないか、というのが、僕の今のテスラの評価ですね。

2020年はテスラの株価が爆上がり

加藤 テスラの株価が2020年初頭から1年の間で約10倍に急騰しましたね。

▲テスラの株価は1年で86ドルが883ドルに!

岡崎 そのテスラが、果たして地球環境に良いことをしているのか? あんなにデカくて重くて速くて、電気をいっぱい食うEVを作って売ることが、果たしてCO2削減、地球のためになるのかといったら、まぁ、ならないわけですよ。

池田 要するに「EVを作ること=エコロジー」という考え方なら、彼らはエコなことをやっているという話なんですけど、エネルギーをセーブしろようという概念は、どこにもないわけです。

加藤 リチウムイオン電池そのものが、ある面でいうと地球に優しくないわけですしね。有害物質で環境破壊するわけですから。化石燃料に比べれば、CO2削減にはいいのかもしれませんが、廃棄まで考えたら大変な産業廃棄物になります。

池田 だから、今の風潮って、世の中の無知や誤解に基づいて“わかりやすいところ”だけをやっている。わかりにくいところでは「それってどうなのよ」と言われることが、いっぱいあるんですよね。だけど、やっぱりテスラってこれだけの急成長をしているので、テスラを崇め奉る人たちが大勢いるわけですよ。「すごい! 我々もこの成長を見習いたい! あやかりたい!」と。