2020年にテスラは悲願の50万台の販売(年間)を達成。“一部の人が趣味で買うクルマ”ではなくなってくる段階になってきているが、大規模なリコール報道もあったテスラの安全性はどうなのだろうか?
テスラバブルに踊らされずに、真のEV産業の現実を見極めるにはどうしたらよいのか? 今、注目される新産業「EV」(電気自動車 / Electric Vehicle)をテーマに、加藤康子氏(元内閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の3名が、脱炭素(カーボンニュートラル)やEV、エネルギーと日本のものづくりの大問題を徹底討論!
※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
テスラの自動運転はどのレベルなのか?
岡崎 テスラは本国アメリカで、一部の人に向けて最新のバージョンにソフトをアップデートすると、街中でもハンドル、アクセル、ブレーキを自分で操作しなくても、ナビをセットしておけば自動で運転してくれる……というサービスを提供し始めています。
ただ、これがテスラの言う「完全自動運転」かというと、決してそうではなくて、あくまでも「運転支援」なんですよ。なぜかと言うと、ドライバーは常に周囲の状況に目を配らないといけなくて、危ないと思ったら自分でハンドルを切らなきゃいけないし、ブレーキも踏まなきゃいけないと定義されているから。
本当の自動運転、いわゆる「レベル4」以上の自動運転というのは、ドライバーは何もしなくてもいいんですよね。
池田 なんなら、酒飲んで寝ちゃっていてもいい……ということになってこそ、完全自動運転なわけですよ。
加藤 アメリカのロサンゼルスで、テスラの自動運転で140km/h出しながら昼寝をしていた人が、事故を起こしてクルマを大破させたという事件がニュースになっていましたよね。
岡崎 「昼寝をしたらいけないのに昼寝をしたから、事故の責任はドライバー」というやつですね。普通、運転中に昼寝をするかって話ですけど。
加藤 さすがにアメリカ人はやることがダイナミックというか大胆というか(笑)。
池田 テスラ側はあくまで「自動運転」と言うんですよ。英語では「オートパイロット」と言うんですけど。でも、それはただの登録商標で、現実には我々が思っているような自動運転じゃなくて……つまり法的な定義の自動運転じゃないんですよね。
スバルの「アイサイトX」と「テスラ」を比較する
加藤 例えば、スバルの運転支援システム「アイサイトX(エックス)」は、高速道路でもハンドルに軽く手を添えているだけ。50km/h以下の渋滞時には手放しもできる。それを「ハンズオフアシスト」と言っているんですけど「自動運転」という言い方はしない。あくまでも「ドライバーズアシスト」ですよ。
岡崎 そうです。僕が「テスラの好きな部分もあるけど、嫌いな部分もある」というのは、まさにそういう部分でして。本当は自動運転ではないのに、自動運転と言って誤解を呼ぶ、誤解されても上等だ、という売り方をするじゃないですか。
池田 大風呂敷を広げてね。
岡崎 テスラは強気で言うんですね。ちゃんとモニタリングして、危ないと思ったら人間がカバーしなきゃいけないのに「それをあなたがやらなかったのだから、あなたが悪い」と。それでも「オートパイロット」だの「完全自動運転」だのと恥ずかしげもなく言う。そのあたりがユーザーを騙して売っている感があるんですよね。
池田 そういった行き違いが何度も起きて、何度も裁判になっているのに、まだホームページには「オートパイロット」と書かれているわけです。
岡崎 自動運転というと、テスラが圧倒的にリードしていると思っている人が多いですが、それは“テスラの嘘”に騙された人たちです。人が関与しない自動運転は、まだテスラでも実現できていない。
自動車専用道路での渋滞時のみ、テレビを見たりスマホを操作したりしてもいいという「自動運転レベル3」を実現したホンダ「レジェンド」が、現在のところ唯一の自動運転車です。
池田 完全自動運転は相当にハードルが高いと思っていますが、例えば、高速道路を使って300kmとか400kmの距離をシステムのアシストを受けながら、今までより遙かに、楽に走破するというところまでは、もうかなり近づいています。
あとは、ユーザーがそれで満足できるのか、完全に運転から開放されたいと思うかどうかです。個人的には、最新世代の高度運転支援は十分に大きな進歩を遂げているので、当面はそれで移動がずっと楽になるんじゃないかと思っています。