今、中国ではおよそ年間2,500万台の自動車が売れており、圧倒的に世界シェアトップの座にある(日本は年間460万台で世界3位)。各自動車メーカーは中国のマーケットを意識せざるを得ないが、中国の「政治リスク」にも常に気を配らなければならない。EVは中国でも販売数はまだまだ136万台程度(2020年)。加藤康子氏(元内閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の3名が、中国自動車マーケットの現在を解き明かす。

▲電気自動車を通して見えてくる日本の産業や政治の問題点を徹底討論

※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

知られざる中国の自動車産業の現在

加藤 中国での自動車産業は、これから発展・成長すると考えられていますが、今はどういう状況なのか、何が売れているのか、教えていただけますか?

池田 中国でずっと売れているのは、かなり前からフォルクスワーゲン(VW)なんですよ。VWは、まだ中国がこんな巨大マーケットになると思わない頃から、ノックダウン生産といって、ドイツで作らなくなった古い車の型を中国にあげて、それを元に作らせていたんですよね。

「サンタナ」というクルマがあったんですけど、ご存知ですか? 80年代以降、中国ですごく普及してタクシーなどにもいっぱい使われたので、その縁からドイツと中国のつながりが始まっています。

岡崎 サンタナは日本でも、日産が生産・販売していた時代がありましたね。

池田 日本車に関しては、実は中国に来てくれということをしつこく頼まれていたんですが、当時(2000年代初頭)の経産省は偉くて「技術が流出するから中国に行くな」と止めていたわけですよ。日本の自動車メーカーで、特にそういう先進技術を持っているクルマは中国にはあげない、ということを意識していたんですよね。

 

加藤 なるほど。この図をみるとVWはぶっちぎりなんですね。

池田 シェアでいうとそうですね。そういう過去のしがらみがあって、日本は中国に極端に肩入れをしないようにやってきているんですよ。とはいえ、ホンダ・トヨタ・日産は上位にあります。

加藤 ベスト10には中国メーカーも4社入っていますね。4位がジーリーですか。

池田 この会社はボルボのオーナーです。

加藤 ボルボを買収したんですよね[※]

※VOLVO(ボルボ)と吉利(ジーリー):ボルボはスウェーデンの自動車メーカー。2010年にボルボ・カーズ(ボルボの乗用車部門)は、中国浙江吉利控股集団(ジーリー)により買収された。

▲ジーリーに買収されたボルボ イメージ:amggts / PIXTA

岡崎 そうです、ジーリーはボルボのオーナー企業であり、かつ、メルセデスベンツグループ(旧ダイムラー)の筆頭株主でもあります。

加藤 じゃあ、ボルボに乗っている人は、実際は中国の会社の自動車に乗っているんだ。

岡崎 まぁそうなんですけど、ジーリー傘下になってからのボルボは明らかに良くなりましたね。

加藤 えっ、そうなんですか!?

岡崎 そこが中国の強いところで、お金は出すんだけれども口は出さない。ジャガー・ランドローバーが「タタ」というインドの企業に買収されたときもそうだったんですけど、中国はとてもいい“パトロン”になるんですよ。

ボルボは、その前は米フォード傘下だったんですが、その時代にはフォードが作った使いたくもないエンジンを使わされて、もっと売れとか、もっとコストを安くしろとか散々言われていた。

でも、ジーリー傘下になって「ようやく自分たちの思い通りのクルマを作れるようになったんだ」とエンジニアは言っています。その代わり、ボルボの技術はジーリーにスポッと抜かれていくわけですけどね(笑)。

中国は世界で1番自動車が売れる国

加藤 いやぁ、笑えない話ですね(笑)。だいたい中国の市場規模はどのぐらいですか?

池田 中国は年間で2,500万台、ピークだと3,000万台ほど販売していましたね。国別でいえば世界1位です。

 

加藤 日本は460万台ですか。

池田 2番目がアメリカで1,500万台。日本が3番目で、4番目のドイツが330万台ぐらいですね。

岡崎 中国内の自動車販売数を見て思ったのは、まだ中国国産車の割合が低いというところですよ。例えば、日本って90%が日本車なんですね。輸入車は10%です。そういう意味で中国は、まだ外国車が売れているんですけど、今後はおそらく国産メーカーが急速に力をつけてくるんだろうな、という感じはしています。

加藤 私は逆にビックリしました。知らない名前の中国メーカーが、トップ10に4社も入っているじゃないですか?

岡崎 そうですね、一昔前まではリバース・エンジニアリングというと聞こえはいいですけど、つまりパクリをやっていたんですよね、彼らは。

技術もそうですが、形までそっくりというクルマを、堂々とモーターショーに展示しているみたいなことをやっていて。「中国ってそうだからね~」と陰では言われていたんですが、最近はデザインなんかもヨーロッパから一流のデザイナーを引き抜いてきて、思い通りのものを作らせて、全体のクオリティも上がってきているんです。

加藤 「紅旗(ホンチー)」というクルマがありましたね。

池田 毛沢東時代の50~60年代から、中国のVIP用のクルマとしてずっと作られてきたクルマなんですけど、最近はそれが割と商品性を増してきて、先進国の高級車と近いデザインになってきたりしているんですよね。

加藤 乗り心地はどうなんですか?

岡崎 残念ながら中国車って僕らは乗ったことがないので、果たしてどのくらいの実力があるのかというのを言えないというのが、もどかしいところなんですね。というのも、たとえ中国に行っても、外国人じゃ運転してはいけないことになっているので。