2021年12月23日、トヨタ自動車は2人乗りの小型電気自動車(EV)「C+pod(シーポッド)」の個人向け販売を始めた。説明会では「EV投資4兆円」「世界販売目標8割増350万台30年までに」と語り、いよいよEV界にトヨタが本腰を入れたと話題になりました。

一方で、世界のEV覇権を狙っていると言われている、中国のEVの実態はどうなっているのでしょうか。45万円で買えるEVとは? テスラをも上回る高性能EVの実態とは? 加藤康子氏(元内閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の3名が、中国EV最新事情をお届けいたします。

▲電気自動車を通して見えてくる日本の産業や政治の問題点を徹底討論

※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

台頭する中国の新進EVメーカーの実態

加藤 中国で話題になっている新進のEV自動車メーカー3社、NIO(ニオ)、BYD(ビーワイディー)、SGMW(上汽通用五菱汽車)については、注目株のようですので、チェックしておきたいですね。2020年の中国のEVの販売数を車種別で見ますと、

  • 1位がテスラの「モデル3」(約14万台)
  • 2位がSGMWの「ホンガンMIINI EV」(約12万台)。〔※最低スペックが45万円で話題の二人乗りの小型EV〕
  • 3位が、バオジュン(宝駿)の「Eシリーズ」(約5万台)

その他、BYDやNIOなどの中国メーカーが続いています。

岡崎 「ホンガンMIINI EV」と「バオジュEシリーズ」というのは、米GMと中国の上海汽車、五菱(ウーリン)の合弁会社であるSGMW(上汽通用五菱汽車)が出した、低価格モデルのブランドです。どちらも小型EVです。

加藤 GMが中国に参入しているんですね。中国ではミニEVが続々と発売されていて、クルマを初めて買うような若者にも人気があるようですね。日本ではあまり知られていないメーカーも多いようで、もうほとんど雨後の筍状態かもしれませんが、そのあたりはいかがですか。

池田 基本的に中国という国は「これが売れる!」となると、みんながそこに寄ってたかって同じものを作るんですよ。で、みんなで食い合って足の引っ張り合いをして潰れていく、というパターンが多いんですね。

EVについては、今がまさにそういうタイミングにあって、そこを中国政府が選り抜きで誰を生き残らせるかという政策をとっています。実際、NIOもテスラより株価の成長率が素晴らしいと言われますけど、一昨年ぐらいには潰れかけていた倒産寸前の会社だったんです。それを2020年の4月に、国有企業から1060億円の補助金が突っ込まれて復活して……。

加藤 1060億円の補助金?

池田 はい。

加藤 すごいね。

池田 たまに「NIOは、テスラを追い抜く勢いを見せ、中国は今、大変な勢いで成長している」とアピールする評論家もいます。でもそれは、一昨年まで潰れかけていた会社が、国からお金がたんまり入って復活して伸びている状態なんですけど……という背景をちゃんと理解したうえで言っています? ちょっと中国贔屓すぎませんか? ……という話でもあるわけですよね。

加藤 中国の自動車販売の影には、中国共産党からの惜しみない支援があると。

池田 でも、どう言ったらいいんでしょう。良くも悪くも一党独裁政治のなかで起きている現象なので、他国で起きている現象と同一視はできないんですよ。都市部ではEVは即時ナンバーが交付されるけど、エンジン車は2年待ちという政策をとったり、そこまでやってのシェアです。中国のEV販売をどう評価するかは、難しいところです。そして一方では、メーカーと中国共産党との親密度は、党の都合で簡単に変化します。

岡崎 ただね、このところの国を挙げてと思われるテスラ叩きを見ると、中国でのテスラ人気がいつまで続くかはわかりませんが、クルマを1度も所有したことがない人がまだ多い、つまり現在進行中のモータリゼーションを追い風に、低価格の超小型EVというジャンルを他国に先駆けて中国が確立しつつあるのは間違いないですね。

▲超小型EVは日本でも普及するか? イメージ:TTwings / PIXTA