なぜ中国は世界トップクラスの経済大国、製造大国となりえたのか? そのひとつの要因に、2015年に発表された「中国製造2025」という国家戦略があります。ここには、中国建国100周年にあたる2049年を目標とするロードマップが、明確に描かれています。

現在の日本に、それだけの長期成長戦略があるでしょうか。目標となるビジョンを明確にし、全員でそこに向かっていくことの強み。以前の日本にはあったであろう強さや勢いを、私たちは取り戻すことができるのでしょうか? 加藤康子氏(元内閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の3名が徹底討論!

▲電気自動車を通して見えてくる日本の産業や政治の問題点を徹底討論

※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「中国製造2025」の恐るべき野望

岡崎 中国はここ数年、なぜ製造業に力を入れてきたのか、という話がありますね。

加藤 やはり、明治日本と同じように、近年の中国はまさに殖産興業と富国強兵ですね。国家目標の重要産業に製造業を位置づけ、支援していくことが最重要政策だと考えていまして、それが「中国製造2025」※注1によく表れています。

その「中国製造2025」の冒頭にある文章をご紹介させていただきます。

製造業は国民経済の主体であり、立国の根源であり、興国の器であり、強国の基礎である。18世紀半ばに始まった産業文明以来、世界の強国の興亡と中華民族の奮闘の歴史は、強い製造業がなければ、国家と民族の繁栄も存在し得ないことを証明している。国際競争力のある製造業を確立させることこそは中国の総合的な国力を高め、国家安全を保障し、世界の強国を打ち立てるための唯一無二の道である。

加藤 これ、どう思いますか?

池田 正直、素晴らしいですねぇ(笑)。

加藤 素晴らしいでしょう。まったく素晴らしいのですよ(笑)。

岡崎 この戦略の裏で行われていることを考えると、無条件で褒めたたえるのもなんだなと思うんですが……。でも、日本もこのぐらいのことを政治家に方には言ってほしいですね。

加藤 本当にそうです。国家が繁栄するためには、製造業が最も大事だということを中国はよくわかっています。国家としての明確な意志がある。

池田 今の日本の政治家が忘れてしまっていることかもしれない。

加藤 仰る通りです。日本にはその意志がない。では次に、中国が国家戦略のなかで「この10項目においては覇権を握っていくぞ」というものについて見ていきたいと思います。

 

まず、1番目が「次世代情報技術」。これには5G・6G・半導体・通信の分野が入ってきます。まさにファーウェイが先頭にいます。

2番目は機械・ロボットの分野。CNCというのは、コンピューターで制御する技術です。3・4・5番は、宇宙・空・海・陸を制圧するということ。6番目が、まさにEVの分野です。このなかでマークしている1・6・9の分野が、特に自動車産業に密接に関わってくる分野です。

▲3つの分野が自動車産業に密接に関わってくる イメージ:imageteam / PIXTA

岡崎 いやぁ、これ全部コピペして日本の政策にしてもいいんじゃないですか(笑)。

加藤 本当にそう思います。日本がすでに技術を持っている部分も非常に多いですけれど、中国は戦略に長けています。「千人計画」※2などでは、日本や海外から優秀な技術者や学者をお金の力で招聘していますが、高度な技術をどんどん自分たちのものにして、製造業を発展させ、国家の足腰を強くしていきたいと考えているわけですね。

池田 かたや我が国では「ESG投資」、それから「グリーン&デジタル戦略」。

岡崎 日本の製造業は、“ものづくり大国ニッポン”はどこへいったのかと。