闇夜に鳴り響く『ゴッドファーザー』のテーマ曲

危険な目に遭ったこともある。あの当時、神奈川県でも川崎と横浜の暴走族はむちゃくちゃ仲が悪く、粋がった車で地元以外を走るのはリスクがあった。だが、大きな街は誘惑も多い。ある週末の夜、川崎ナンバーのマーバンで、横浜に友人とナンパしに行った帰りのことだ。横浜の暴走族が溜まっているガソリンスタンドが目に入った。

「しまった!」と思ったが、時すでに遅し。Uターンすることもできず、さらにタイミングが悪いことに、目の前の信号が赤になって彼らの目の前で停車することに。

横浜の暴走族たちは、律儀に信号待ちをしている川崎ナンバーのマーバンにメンチを切っている。

▲内装にも凝った

俺は愛車を壊されることがなにより怖かった。だから信号が青に変わると同時に、横浜の暴走族を刺激しないようにそーっと発進した。

帰り道は交差点を左だ。巻き込み確認をきちんとしたうえで、法定速度を守って静かに信号を左折する。だが、どれだけ丁寧にアクセルを踏んでも、直管のマフラーは「ボボボボボボ」と挑発しているかのような音を出す。

背中を冷や汗がつたう。この50対2の構図で絡まれたら、間違いなく愛車がぶっ壊される。さらにスピードを落としてゆっくりと左折する。ようやく切り抜けた、と思ったその直後、誤ってハンドル横にあるスイッチをオンにしてしまった!

「パパパパラパラパラパラパー」

夜中の横浜に鳴り響く『ゴッドファーザー』のテーマ曲。このタイミングで一番触ってはいけないスイッチだった。

「パパパパパパパ」の音を合図にして、横浜の暴走族は一斉にこっちの車に敵意をむき出しにした。そんなつもりはなかったのだが、最初にあおったのは俺だ。

「やばい」

全力でアクセルを踏み込んだ。

バックミラーを見るまでもなく、爆音がマーバンを追いかけてくるのがわかった。捕まったらただではすまない。もはや車が壊されるというレベルでは済まないだろう。ドラマさながらのカーチェイスが始まった。

後ろから迫る横浜軍団。必死に逃げる川崎マーバン。

だんだん地元に近づいてきたのがわかった。横浜から川崎に入る246の道路を渡る、その直前で急ハンドルを切る。このあたりの地理ならお手の物だ。小さい道を駆使して、暴走族を巻くことに成功した。

「パパパパラパラパラパラパー」

ざまぁーみろと言わんばかりのラッパを鳴らす。俺たちは一命を取り止めた。