昔から細かいところが気になるクセがある
――特にお気に入りの話ってありますか? これは書くのに大変だったけど、反響少なかったな、とか。
吉田 そもそも連載のときから、直接感想を言われたことがほとんどなくて。「今回の話、良かったですね」ってLINEくれるのもほとんど……(と言ってインタビュアーを指差す)
――え、マジですか、逆にありがとうございます、というか寂しい話ですけど(笑)
吉田 あーでも、新幹線で姉と過ごした話は唯一ちょっといい話だな、と読み返して思いました。
〇祖父の訃報を受けて故郷に帰る時、その弁当を選べる姉は頼もしかった。
――いいですね。あの話こそ“さくらももこ”の要素あるな、と思いました。悲しい空気の中に面白いことがあるとか、見栄とか体裁を引っ剥がす感じとか。
吉田 昔から、そういう細かいところが気になるクセがあるんですよね。まだ10代の頃、地元に住んでるときに中学の同級生が亡くなったんです。それで、四十九日に仲良かった奴5~6人で、そいつの家に線香をあげに行こうって話になって。
――すごく良い子たちですね。
吉田 そいつの家に行ったら、かなりイカツい感じの父親が出てきて「お前らなんや」って言われて。怖がりながらも「OO君に線香あげに来ました」って言ったら「え、ありがとうな、ありがとうな」って手を取って感動して泣いてくれて。びっくりしたんですけど、線香あげに来た俺らも、なんかいいことしたなって達成感があって。
――達成感……(笑)。でも言いたいことはわかります。
吉田 でも同時に、なんか来年からも来なきゃいけないな、っていう義務感みたいなものも生まれたんです。そうしたら3回忌の時に例年通り線香をあげに行ったら、父親が「え、まだ来るの?」みたいな、明らかに面倒くさい空気を出したんです。
――あははは(笑)。
吉田 その瞬間に「あ、もう来年から来なくていいな」って、そのグループみんなが思った空気があって。特に誰も何も言うことなく、次の年から自然と行かなくなりました。でも別に、そいつに対しての追悼の想いが消えたわけじゃないんですけど。
――すごく吉田さんっぽいエピソードだなって思いました。サウナのしきじに行った話も面白かったです。自分を含め、みんなが崇めていることって、実はこんな程度のもんなんじゃないの? わかったフリしてやってるだけじゃないの?っていう皮肉もありますよね。
〇サウナを語るにはどうしても『しきじ』に行っておかなければならないと思った
吉田 そうですね、自分もサウナが好きだし、漫画の『サ道』もすごく楽しく読んだんですけど、スピリチュアルなほうに行き過ぎるのが自分の中ですごく気持ち悪いな、って感覚があって。あと基本的には誰も言ってなさそうな切り口で書きたいな、というのはありますね。そもそも「整う」って言語化されてなかったときに、みんなそんなに騒いでた?っていう。
2022年はアルバムを出したい
――ゆずのストラップの話とかも、自分のセンスへの懐疑的な想いが透けて見えて、とてもバンドのフロントマンとは思えないな、って思いました(笑)。
吉田 それで言うと、自分のセンスは常に疑っているかもしれないです。高校の頃、俺バンドとか向いてないのかな、と思ったりしました。それで思い出したんですけど、かなり前に知り合いの個展みたいなのに行ったときに、知り合いなんで一個一個の作品について丁寧に「ここが良い所で」って説明してくれるんですよ。それがもう自分の中ですごく恥ずかしくて……。
――あはははは(笑) ひどい!
吉田 一緒に行った奴に帰り道で「すごく恥ずかしくなかった?」って聞いたら「お前は酷い奴だ」って同じことを言われました。
――(笑)。いや、でも吉田さんの立場、というかバンドのボーカルなんて1番そう言われる危険性も孕んだ存在じゃないですか。
吉田 あー、でもそれで言うと、俺、自分が歌ってることが正しいとか、良いことだと思ってやってないかもしんないです。
――あ、なるほど。
吉田 だから別に自分の言うことをいいもの、とか、カッコいい、とか思ってほしくてやってないから“ここが良くて”みたいなことも言えないし。ただできれば嘘はつきたくないなっていう。
――トリプルファイヤーの曲もそうですもんね。そうじゃなかったら「パチンコがやめられない」って曲歌えないし(笑)。
吉田 1番腹立つのが、何かの意見に対して、自分は素直に意見を言っただけなのに「ああ、逆張りね」みたいな反応されることですね。自分の価値観の範疇にないことを言われただけで、ざっくりまとめて、わかってないものも全部わかったフリされるのが1番イライラします。
――今は怒りについてお聞きしましたが、吉田さんが最近感動したものはありますか?
吉田 ほかでも少し話したんですけど、保坂和志さんの『書きあぐねている人のための小説入門』は最近読み直してやっぱりすごいな、と思いました。いわゆる小説の書き方指南みたいな本なんですけど、それがただ単にテクニックだけじゃなくて、ちゃんとこっちの価値観も揺るがしてくるっていう。何か文章で表現したいなと思っている人は絶対に読んだ方が良いと思います。やっぱりこういう表現が好きなんだな、って思ったし、自分の中のヤバいなって思うところを大事にしないといけないな、って再確認しました。
――以前にも、吉田さんにこの本を薦めていただいた記憶があります(笑)。ありがとうございます、2022年の目標もお聞きしていいですか?
吉田 アルバムを出したいっすね。実はもうレコーディングは終わっていて、ミックス、マスタリングの完成を待っている状態で。周りからも「いつ出るんだ?」ってよく言われるんですけど、今年こそは何とかしたいっすね。あと、さっき推薦した本にあわせたわけじゃないですけど、小説も書いてみたいと思います。大変だと思うんですけど、この1年で3冊エッセイを出版させてもらったので、いつか小説を書けたら良いなと思います。
〇ここに来るまで忘れてた。[『さんたつ』連載エッセイ]