ロックバンド、トリプルファイヤーのボーカル・吉田靖直。これまでに4枚のアルバムをリリース。音楽好きから高い評価を受ける一方、バラエティやドラマにも出演。「タモリ倶楽部」出演時には初対面のタモリから、その独特のテンションと間を「いいね~」と褒められるなど、メディア露出も話題を集めた。

さらには、大喜利トーナメント「ダイナマイト関西」では芸人に混じって、一般人参加のプレ予選から見事に準決勝まで勝ち上がり、決勝進出をかけて笑い飯の西田と対戦。1ポイント差で惜しくも敗れるが、大喜利の強さを印象づけるなど、音楽以外の活動でも注目されている。

ちなみに、知り合いのミュージシャンづてに、初めて会った時から「あ、この人はすごいな」と思っていたインタビュアーとしては、近年の吉田の活躍が自分のことのようにうれしい。トリプルファイヤーはバンドとしてもカッコいいから、そこももっと評価されてほしい、とも思っている。

それはさておき、2021年2月に初の著作『持ってこなかった男』(双葉社)を発売。そして10月に『ここに来るまで忘れてた。』(交通新聞社)、さらに2022年1月22日には初の書き下ろしエッセイ『今日は寝るのが一番よかった』(大和書房)と立て続けに刊行。バンドマンでありながら文筆活動も本格化させている吉田に、著作への思いはもちろん、表現をするうえで心がけていたことなど、普段はのらりくらりとかわしそうな質問まで逃さずに聞いてみた。

吉田靖直を構成した3人の作家

――昨年10月に『ここに来るまで忘れてた。』そして1月22日には初の書き下ろしエッセイ『今日は寝るのが一番よかった』が発売されました。『ここに来るまで忘れてた。』は雑誌『散歩の達人』の連載でしたけど、どういうきっかけだったんですか?

吉田 『ここに来るまで忘れてた。』は連載をまとめて、書き下ろしを加えたものですね。昔、恵比寿でピーター・バラカンさんのイベントにトリプルファイヤーとして出たことがあって、品の良いおじさんおばさんが集まるライブで、そこで『散歩の達人』の編集の方と挨拶して。そこから少し経って、何を見たのかわからないんですけど「連載しませんか?」って誘ってもらって。

――街にまつわる連載にしよう、みたいなのはどこから出たんですか?

吉田 それ、本を出すにあたって、けっこう聞かれるんですけど、覚えてないんですよね……。

▲カレーを食べる吉田

――あははは!(笑) 覚えてないってことあります?

吉田 あ、最初は連載じゃなかったんですよ、確か。出させてもらった号が「阿佐ヶ谷高円寺特集」で、阿佐ヶ谷に住んでたことがあるから、その思い出だったら書けるな、って思って。そこからなんとなく街について書く連載になった気がします。

――気がします(笑)。テーマになる街は、編集部の方から提案される感じですか?

吉田 いや、それは自分で決めてますね。締切が近くなって、関東近郊の路線図とか、日本地図を見ながら「どこなら書けそうかな」「大阪でなんかあった気がする」って考えて。

――前に吉田さんと話しててびっくりしたんですけど、個人的に僕が文字の本が面白いと思ったきっかけって、原田宗典さんのエッセイなんです。そんなこと全く話したことなかったのに、吉田さんに「やりたいことありますか?」って聞いたら「原田宗典みたいにモノを買って、それについて書くエッセイはやりたいですね」って答えてきて、あ、自分が吉田さんの文章に感じる面白さって、原田宗典のエッセンスもあるのか、って感激して。

吉田 小学生の頃、本を読みだしたきっかけが星新一とさくらももこと原田宗典で、意識しなくてもどこかにこの3人の要素はあるかもしれないですね。

――特にそれを感じたのが、広島から帰る高速バスで腹痛に襲われる話で、お腹の痛みの表現とかが、原田宗典の文体における語感の良さ、リズムで笑っちゃう感じ、それを思い出しましたね。

吉田 あー、ありがとうございます。特に1冊目に出した『持ってこなかった男』は自伝だったので、ずっと続いていくような構成だったんですけど、『ここに来るまで忘れてた。』は1話完結なので、エッセイの書き方みたいなことで言えば、影響を受けていると思います。

――吉田さんの場合は、そこにカット割りの面白さもあって、この広島の話でも、わざわざバンドメンバーを先に帰らせて、自分だけ広島に残って満喫しようって意気込んだ次の行で「翌日、昼に起きてサウナでマンガを読んでいるうちに夕方になってしまった」ってあっさり書いてて、その刹那的な感じも面白いですよね。サウナを出て、無の表情で広島に佇んでいる吉田さんが頭に浮かぶんですよね。

吉田 へー、ありがたいですね。前の本もそうですが、文体とか構成に対して赤字が入ったりとかがなかったので、前の本と比べても違和感なく読めるかなと思います。