保護観察官との約束で、チームの仲間たちとはもう会わないと誓った。でもそれは、自分だけの決意に過ぎなかった。ある日の携帯への着信――それが地獄へのアナウンスでもあった。果たして福田健悟は無事に先輩たちの攻撃から逃げ切ることはできるのか? 今、自分自身への審判が下される。
命の尊さを仲間たちに伝えたいだけだった
番号で呼ばれることは、別に構わない。名前で呼ばれようが、番号で呼ばれようが、僕は僕だ。問題は、間違ったことをしていないのに、『45』と呼ばれること。
父はタバコを吸っている。僕は吸っていない。命を粗末にしているほうと、大事にしているほうなら、大事にしているほうが正しいに決まっている。もちろん一家の大黒柱として、家庭を支えるのも素晴らしいことだが、命に対する姿勢は根本的な部分だ。根本的に正しいほうが上なはず。
じゃあ、なんで番号で呼ばれたんだ? 苛立ちは止まらなかった。また別の日。今度は大志と言い合いになった。
「なんでタバコ吸ってんの?」
「お前も吸ってたじゃねーか」
「でも命の尊さに気づいて、俺はやめたからな」
「お前はやめても、俺はやめねーからさ。押しつけんなよ」
「押しつけてねーだろ」
「なんか聞いたぞ? 最近お前がおかしくなったって。生まれ変わりがどうとか、言ってるらしいな。今も命がどうとか言ってたし。変な宗教に狂ったんじゃないかって、噂になってたぞ」
昔の仲間とは会っていなかったが、地元の友達とは会っていた。そんなことを言われていたのか。大志は、押しつけるな、と言っていた。押しつけていたのがダメだったのか? そう思って振り返ってみたが、決して押しつけてはいない。自分自身がタバコを吸ってないことを伝えただけだ。一言も、吸わないようには言っていない。
命が尊いというのも、事実を言っただけで、押しつけたわけではない。タケルが身を持って教えてくれたこと。それを伝えているだけなのに、周りからは宗教に狂ったと言われている。
大切な人を亡くしたときに、皆が悲しまないように、生まれ変わりの話をしていただけだ。思い返してみれば、僕も最初にスピリチュアルの本を勧められたときは、怪しいと思っていた。皆が拒絶反応を示すのも、仕方がないのかもしれない。
本に書いてあることを理解できない人は多かった。母もそうだ。何度も何度も、バイトをするように言ってくる。でも、本にはこう書いてあった。
『生活のためにしたくもないことをして、人生の時間を無駄にしてはいけない。そんな人生は、生きているのではなく、死んでいるのだ』
僕がしたいことは音楽活動だ。バイトをしようにも、タトゥーが入っていたら、面接には受からない。タトゥーを入れたのは、マヤの裏切りで自暴自棄になっていたからだ。つまり、自分の責任ではない。鑑別所から出て、日常の全てに感謝をするようにはなったが、自分のしたくないことをするくらいなら、野垂れ死にをしてもいいと思っていた。
そんな矢先に、知らない番号から電話がかかってくる。相手はギャングイーグルの4代目である1人。携帯を変えたのか。
「今から出れるか?」
「今はちょっと」
「忙しいのか?」
「いや」
「じゃあ出てこいよ。面白い話があるんだよ。ホワイトソウルの、誰が被害届を出したのか、わかったみたいだぜ。俺らにビビって学校を辞めたやつらいただろ? あの中の誰かなんだってよ」
「すいません。言いづらいんですけど、昔の仲間には会わないように言われてて」
「なんだそれ?」
「もし前の生活に戻ったら、今度こそは少年院に行かないといけないみたいで」
「いいから出てこいよ」
「親も捕まったことにショックを受けてて、僕もこれからは普通に生きていきたいなぁって思ってるんです」
「無責任なこと言ってんじゃねーよ。お前はギャングイーグルのリーダーだろ? 鑑別に入って丸くなったのか? 叩き直してやるよ」