中国で行われている生体臓器移植ビジネスの背景には、中国で抑圧される少数民族ウイグルの人々が犠牲となっていました。中国分析のベテランジャーナリスト、イーサン・ガットマン氏が、中国の生体臓器移植ピジネスの背後にある、中国政府の日和見主義と残忍さを語ります。

ウイグルをテロリストと決めつける中国政府

中国とウイグルのせめぎ合いの歴史は長い。毛沢東が1949年に侵略したときは、同地の漢民族はわずか7%に過ぎなかった。その後、中国共産党の役人や兵士、店舗経営者や建設会社の人員などの大量流入により、漢民族が多数派を占めるようになり、ウイグルの言語・文化への抑圧も正当化されていった。

当初は、綿の生産、毛沢東の近代化の理念、ソ連への対抗意識などから漢民族は新疆に移民していたが、現在は、今世紀末までに新疆を中国最大の石油・天然ガスの生産拠点とする党のもくろみが、漢民族による現地拡張を焚きつけている。

国家投資を保護するため、暴力的な反逆者でも平和的な活動家でも、ウイグルの民族主義すべてを、中国政権は米国CIAの回し者とラベル付けしてきた。しかし、9・11以降、この陰謀説は忘却の彼方に消え失せる。

突如、アルカイダが率いるウイグルのテロリストに対抗する、というシナリオが現れ、「自分たちは、これまでも常にこのテロリストと戦ってきた」と中国政権は歴史を塗り替えた。

中国共産党政権は、ウイグルに国際テロリストのレッテルを意図的に貼ろうとしている。ウイグルをテロリストと決めつける中国政府の言葉をそのまま受け入れる米国議会は、共産党政権に身をゆだねているのではないだろうか。

新疆は長年にわたり、中国共産党の秘密の研究所と化していた。1960年代半ばから新疆のロブノールで大気圏内の核実験が繰り返され、首都ウルムチでは発がん率が大幅に上昇した。

数回にわたる核実験では、爆心地を始めとした異なる地点に囚人を配置し、爆破や放射性降下物が及ぼす影響を測定した。ウイグル人、宗教思想犯や極悪犯を収容できる推定5万人規模の世界最大となる強制労働所をタリム盆地に建設することが、過去10年のある時点で許可されている。

核実験と強制労働所建設の2つの時期に、政治犯からの最初の生体臓器狩りが行われていた。

処刑場に搬送された囚人に打たれた注射は・・・

▲処刑場に搬送された囚人に打たれた注射は… イメージ:Hanna / PIXTA

2年にわたり接触したウイグル人の証人たち(2つの大陸に点在する元警官、医療関係者、公安職員)は皆、つたない翻訳を通してではあるが、私の断片的な情報源となった。彼らの証言は、潤沢な生体臓器供給の発展過程だけでなく、より広域な残虐行為の始まりも明かしている。

1989年、ニジャット・アブドゥレイムは、新疆警察学校を20歳そこそこで卒業し、特殊部隊であるウルムチ公安局第一連隊に赴任した。「社会保安」(事実上の鎮圧)担当の中国人部隊初のウイグル人だった。

ウイグル人を尋問する際、特に重要な事例で「善良な警官」の顔となるためだ。初めてニジェットに会ったのは、ローマ郊外の過密した難民キャンプだった。痩せ細り、沈み込み、そして警戒心で張りつめていた。

ニジェットは、職場では中国人の同僚が、常に自分を監視していることを意識していたと語った。彼は誠実な笑顔の「リトル・ブラザー」として、当局が望む印象を備えていた。

1994年までには、拘置所や尋問室、処刑場などの機密の場所すべてに出入りが許されるようになった。その過程で、かなりの拷問、処刑、強姦を目の当たりにした。

ある日、中国人警官が首を振りながら処刑場から戻ってきたので、ニジャットはどうしたのか尋ねた。仕事をこなすうえでも知っておくべきだと思ったのだ。警官が言うには、通常の手順通り、不要な身体は壕に放り込まれ、利用価値のある身体だけが臓器狩り用のワゴン車に運びこまれたが、男の叫ぶような声を耳にしたという。

「まだ誰かが生きていたのか? どんな叫びだった?」

「地獄からのうなり声のようだった」

一時的な感傷にとらわれていると思い、ニジャットはただ肩をすくめた。

数ヶ月後、拘置所から処刑場に3人の囚人が搬送された。ニジャットは、そのうちの1人の青年と親しくなった。彼のそばを通りすぎたとき、青年は目を皿のようにして「なぜ注射をしたんだ?」と質問してきた。

注射は医務局長が打ったものだった。局長と幹部が自分の言動に耳を傾けていると感じ、ニジャットの口から滑らかに嘘が出た。

「撃たれたときの痛みを和らげるためだよ」

力なく微笑む青年の表情を、一生忘れることはないだろうと思った。処刑が終わるのを待って、医務局長に尋ねた。

「なぜ注射したのですか?」

「ニジャット、ほかの部署に移動させてもらえるなら、なるべく早くしてもらいなさい」

「どういう意味ですか? いったい何を投与したのですか?」

「きみには信仰はあるかね?」

「はい。医務局長は?」

「抗凝血剤だ。我々は皆、地獄に落ちるだろう」

▲遠方を見つめる目。「リトル・ブラザー」ニジャット・アブドゥレイムは、中国のウルムチ公安局が反体制派ウイグル人を尋問する際「善良な警官」の役割を果たした(撮影:Jaya Gibson 2009年) 『臓器収奪――消える人々』より

※本記事は、イーサン・ガットマン:著/鶴田(ウェレル)ゆかり:訳『臓器収奪――消える人々』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。