中国政府によるウイグルに対する弾圧は、今なお続いている問題です。今年の6月にも、国際人権団体が、ウイグル族などイスラム教徒の少数民族が多く暮らす中国北西部の新疆地区で、中国政府が人道に対する罪を犯しているとする報告書を公表しました。新疆ウイグル自治区では一体何が起きているのでしょうか。中国ウオッチャーであるジャーナリストの福島香織氏に、実際に現地に赴いた経験をもとに語ってもらいました。
※本記事は、福島香織:著『ウイグル・香港を殺すもの - ジェノサイド国家中国』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
中国共産党がつくり出した「パノプティコン」
私が最初に新疆ウイグル自治区に足を踏み入れたのは、今から20年以上前の1999年、両親を連れての家族旅行でした。当時はウルムチ・トルファン・カシュガルなどを訪れ、覚えたての中国語で両親を案内しました。
1999年のカシュガルは、あまり中国語が通じず、漢族もほとんど見かけませんでした。ウイグル人は気さくで親切でしたが、多少こずるいところもあり、当時はスリや置き引きにもそれなりに気をつけないといけない状況でした。それでも次に訪れた2019年とは違い、みんなが陽気だったことを覚えています。
なにより印象的だったのは、街中に羊があふれ、町全体に羊のにおいが立ち込めていたことです。1999年のカシュガルは、どこからどう見ても「中国」ではなく、まったくの「異国」でした。
そして2019年に再び訪れたときには、そこは完全に「中国」になっていました。中国語も普通に通じるようになり、街中は羊の代わりに警官であふれていました。漢族も明らかに増えて、ウイグル人7に対して漢族3ほどの割合になりました。観光客はほぼ100%が漢族です。
また、街中のいたるところに「有黒掃黒、有悪除悪、有乱治乱(「黒があれば黒を一掃し、悪があれば悪を排除し、乱があれば乱を治めるのだ)」「民族団結一家親(民族は団結して家族のように親しい)」といった中国共産党の標語の垂れ幕が貼ってありました。
街中に設置してあるスピーカーからも、同じようなスローガンが中国語とウイグル語で交互に大音量で流れ続け「社会秩序を乱す悪を徹底排除しよう」と市民に繰り返し呼びかけていました。
たしかに20年前に比べて、カシュガルの治安は良くなりました。おそらく新疆全体で見ても、治安そのものは良くなっているのでしょう。しかし、それはやはり新疆全体が“巨大な監獄”だからです。この世で最も治安の良い場所は、監視体制がしっかりとした監獄です。監獄の中だからこそ簡単に犯罪が起きないのです。
普通の監獄なら刑期を終えれば外に出られます。しかし、ウイグル人たちが暮らすこの“新疆監獄”は、現在の中国共産党支配が続く限り簡単には出られません。在日ウイグル人のように海外に脱出できたとしても、大切な家族や親戚を人質にとられ、常に精神は“拘束”され続けているのです。
私は、この新疆の悲惨な状況に「パノプティコン」という言葉を思い出します。