100万人を超える人たちが不当に拘束されていると指摘されている、中国の新疆ウイグル自治区。それは子どもたちも例外ではありません。大人と同じように不当に捻じ曲げられた教育を受け、洗脳されていくのです。新疆ウイグル自治区での子どもたちを取り巻く問題を、ジャーナリストの福島香織氏が指摘します。

※本記事は、福島香織:著『ウイグル・香港を殺すもの - ジェノサイド国家中国』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

親の「再教育」で“孤児”にされる子どもたち

再教育施設への強制収容の問題に伴って起きているのは、親が収容されているウイグル人の子どもたちの養育問題です。

国際人権組織ヒューマン・ライツ・ウォッチのリポートによれば、親が再教育施設に入れられて、家に残されたウイグル人の子どもたちが、親族のもとから強制的に連れ去られ「福祉」の名のもとに公営孤児院に入所させられるというケースが続出しています。

そもそも中国の法律では、こうした孤児院が子どもの養育権を親族から強制的に取り上げる権利は認められていません。

しかし、新疆ウイグル自治区の書記・陳全国は、2016年11月に「すべての孤児を2020年までに公営孤児院に収容するように」と各下級地方政府に指示を出しました。

これを受けて、2017年1月には政策実施ガイドラインが発表され、新疆内の各地域に100人規模の児童が収容できる“孤児院”の建設ラッシュが始まります。

また、県レベルでは収容孤児数の達成ノルマが課されました。ノルマに達しない公務員は「政治成績」が減点されてしまいます。そのため、祖父母や叔父叔母など保護者がいる子どもを“孤児”にして無理やり引き離し、孤児院に収容するケースもあったそうです。

親族は強く抵抗すると自分が再教育施設に入れられる恐れがあるので、抵抗できません。孤児院に連れて行かれた子どもは、その後、親族とほとんど面会の機会もなく、完全にウイグルの家族と切り離されて教育を受けることになります。

ウイグル人は一族意識が強く、もともと大家族制です。本来、両親がいなくても親族が責任をもって子どもたちを養育するという伝統があります。中国当局はそのウイグルの伝統を完全に無視して、子どもたちを孤児院に“強制収容”しているわけです。

また、そもそも中国の公営孤児院の“質”が信用できないという問題もあります。実際、孤児院による子どもの強制労働や迫害の問題が、ニュースとして報じられることも少なくないのです。

▲ウイグル人の家族  出典:PIXTA