監獄に収容された人々から摘出された臓器。その臓器の買い手側の人間を目撃した医師から、臓器が移植されるまでの一部始終が語られた。中国分析のベテランジャーナリスト、イーサン・ガットマン氏は、中国政府が認めていないだけで残酷な臓器収奪は行われているという。それを暴くだけの証拠となる資料は着々と集まってきているのだ。
若いウイグル人医師がウルムチの監獄へ
1997年の初秋、新疆の農村各地で採血をするため、若いウイグル人医師が赴任した。ムラットと呼ぶことにしよう。ウルムチの大病院で医療業務に就き、未来を確約されたと希望を抱いていたが、2年後、ムラットはヨーロッパに逃亡。その数年後、私は彼に話を聞いた。
ある日、臓器障害のある政府の官僚5人が入院していると指導員がこっそりと教えてくれた。党の幹部だという。ムラットに仕事が課された。
「ウルムチの監獄に行ってくれ。政治犯の棟だ。犯罪者の棟ではない。採血する。少しでいい。血液型の違いを精密に記録してくれ。それだけでいい」
「組織適合は?」
「心配するな。あとでするから。血液型だけ記録するんだ」
委任状をわしづかみにし、病院の助手に付き添われて、痩せ形で学者タイプの彼は15人ほどの囚人と対面した。ほとんどが20代後半のタフなウイグル人だった。彼の前に座った最初の囚人は、注射針を見ると嘆願した。
「僕と同じウイグル人なのに、なぜ僕を傷つけるんだ?」
「傷つけない。血を採るだけだ」
「血」という一言が混乱をもたらした。男たちはわめき逃げ出そうとした。看守は叫びちらし、男たちを列に押し戻した。最初の男は金切り声で無実を主張した。中国人の看守は彼の首根っこを強くつかんだ。
「きみの健康のためだ」とムラットは淡々と言った。病院職員が自分を監視していることを意識して口をついた言葉だった。
「きみの健康のためだ」
採血しながら、ムラットはその言葉を幾度も幾度も繰り返した。
病院に戻るとムラットは指導員に尋ねた。
「この囚人たちは皆、死刑囚なんですか?」
「その通りだ。それ以上は質問するな。彼らは悪い人間なんだ。国家の敵だ」
しかし、ムラットは質問をやめなかった。時を経て、手順が飲み込めるようになった。適合する血液型を見つけたら組織適合の確認をとる。政治犯は右胸を撃たれる。ムラットの指導員は処刑場を訪れ、血液型との適合を確認する。臓器は政府の官僚に移植され、官僚は退院する。
1999年初頭には、官僚はウルムチに来なくなった。数ヶ月後、ウイグルへの弾圧は影をひそめる。毛沢東以来、最大規模の中国保安局による弾圧が始まったからだ。精神修養法である法輪功を撲滅させるための弾圧だ。
処刑者のコラーゲンを英国人女性が顔に塗っている!?
この記事を中国での臓器狩りの教科書にしようとする意図はまったくない。ウイグル・法輪功・チベット・中国家庭教会の人々が政治犯・宗教犯と見なされ、臓器が強制摘出されている問題を調査する者には、今のところ、そのような文章を書くために十分な材料はない。中国共産党が、包括的で透明性のある現地調査を許可していないからだ。多くの声が一つになって中国共産党に要求しない限り、現地調査の実現にはほど遠い。
処刑者のコラーゲンを英国人女性が毎晩、顔に塗っている事実は、BBCの調査チームが定期的に確認している。しかし、中国医学会は、2005年に処刑者の臓器を定期的に剥ぎ取り、富裕な中国人や外国人に移植していることを認めるに留めている。
医療倫理はさておいて、中国当局は、殺人者や強姦者などの囚人からの生体臓器摘出は認めるが、無実の受刑者からの生体臓器摘出は未だに否定している。法輪功修煉者からの臓器狩りの告発は、最初に『大紀元時報』に掲載され、続いてキルガーとマタスによる『Bloody Harvest』(『戦慄の臓器狩り』)の基盤となる最初の報告書が2006年に発表された。
以来、2012年に出版されたマタスらの『State Organs』(『国家による臓器狩り』)と「法輪功への迫害を追跡調査する国際組織(WOIPFG)のウェブサイトに見られるように、証拠はかなり構築されてきた。
この疑惑についてのコメントを迫られたとき、バスタブの中で腎臓を盗まれたことに気づくという都市伝説や、一般社会に侵入した陰謀説として片づけてしまう人もいることだろう。問題を一蹴する前に資料に目を通して欲しい。誰でも最初は猜疑心を抱くものだ。まず自分で納得のいく知的な基盤を確立させてから探索して欲しい。
※本記事は、イーサン・ガットマン:著/鶴田(ウェレル)ゆかり:訳『臓器収奪――消える人々』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。