晴れてNSCに合格し、22期生として入学した福田健悟。笑いを混ぜたスピーチがされた入学式に個性的な同期との出会いで、芸人の世界に気分が高揚する。しかし、そんな第一印象とは裏腹に、実際の学校生活は厳しく容赦のないものであった……。
テレビで見たあの人が! すごい会社に入ったと実感
入学式当日。ハガキには、新宿にある大きなホールが集合場所と書いてあった。駅に案内人が立っている、とも記載されているが、姿は見当たらない。時間は迫っている。いきなり遅刻をして、出鼻をくじくわけにはいかない。
この状況に立ち往生していたのは、僕だけではなかった。ほかにもハガキを持った数人がウロウロしていた。このまま一人で悩んでいるより、仲間を見つけたほうが心強い。
「案内人って、どこにいるんですかね?」
「そうですよね。僕も探してたんですよ」
「ほかにも仲間を見つけてみよっか」
2人になったことで強気になった僕たちは、次々に声をかけて、3人、4人と仲間を増やしていった。こうなると、誰からともなく画期的なアイデアが飛び出す。
「もう案内人いないから、直接この会場に向かっちゃおっか」
4人は一致団結して、ハガキに載っていた会場に向かった。道すがら、ハガキを手に歩いている数名を見つけた。1人や2人じゃない。10人、20人といる。間違いない。この列に紛れ込めばいい。エスカレーターに乗って、階を上がると30人、40人と人は増え続けた。
目的の階に着くと、何百という数の人が渦巻いていた。会場の中にはカメラも入っていて、早速インタビューを受けている者までいる。初日からレンズを向けられていることに、羨望の眼差しを向けながら、案内された席に腰をかけた。最初に声をかけた彼とは隣同士で座った。
「待ち時間長いね」
「いや〜本当に。あ、僕の名前は君島イクデイビスです」
「マイクデイビス? 外国人さん? ちなみに僕は福田……」
タイミング悪く、司会者が壇上に上がった。まぁいい。自己紹介はあとでしよう。一斉に会場は静まり返った。
「フクダさん? 変わった名字ですね」
お前の名前のほうが変わってるだろ、と言いかけたが、空気を読んで言葉を飲んだ。
「それでは、入学式を始めます」
「ちなみに、フクダの“フク”は幸福の……」
「もういいだろ! 怒られるわ!」
これが僕の彼に対する、初めてのツッコミだった。初対面にしては言いすぎたか? とも思ったが、マイクデイビスはニコニコしている。司会者が下がって、次は副社長が姿を現した。
「どうも。副社長の藤原です。皆さんは、今日からプロを目指します。プロになったら、24時間お笑いのことを考えてください」
なるほど。ワクワクする。藤原さんはテレビにも出ていて、ダウンタウンさんとも絡んでいた。間近で、24時間ずっと笑いのことを考えている姿を見てきた人の言うことだ。説得力が違う。
「あとは……えぇと。あれ? 何を言おうとしたんだっけ。まぁいいや。とにかく頑張ってください」
会場には笑いが起きていた。改めてすごい会社だ。こんな副社長がいる会社は他にない。このあとも入れ代わり立ち代わり、いろんな人が壇上に上がって話をした。
「このあとは、学校に行って説明会をするので、4時間後に学校に集合してください」
最後に司会者がマイクを手にとって、約1時間の入学式に終わりを告げた。