濡れたヤツは乾いた表現をやりたがる

――そういう想いを聞くと、ラジオの大竹さんはテレビとはまた違ったスタンスでやられているように感じます。

 

大竹 ラジオは違うね、全然違う。テレビのときは、さっき言ったみたいなヒールでやっても、自分のテリトリーの中で完結できる。例えば、自分のプライベートや日常とかは極端に言えば明かさなくてもやっていけるんだよね、そもそも俺はタレントだけど、家族はタレントじゃないからね。

――たしかに、おっしゃるとおりです。

大竹 俺も若い頃は、ちょっとスキャンダラスな感じだったから、写真週刊誌に撮られたとしても、俺がやったことだから、誹謗中傷だって俺が言われるぶんには構わない。それが家族と一緒に出てたり、家族の話をするようなタレントだったら、俺が何かしたときに家族も誹謗中傷の対象になっちゃうかもしれない。「だってお前、家族も一緒にギャラ稼いでるじゃん」って言われたら何も言い返せないよね。だから、家族の話はテレビで一切しなかった。でも、それがラジオだとそんなこと言ってられないんだよね。月~金の帯やりだしてからは特に。プライベートなことも話さないと、話すことなんかすぐなくなっちゃうから(笑)。

――そうですよね(笑)。

大竹 0から1を生み出す想像力にも限界があるわけ。じゃあ若い頃みたいに、他の芸人の悪口を言うかって思っても、そんなの誰も聞きたくないじゃない?(笑) 俺もやりたくないし。だから自然と女房との会話の中で面白かったこととか、そんなことをポロポロと話さないといけなくなってくる。

――ゴールデンラジオのオープニングで話される大竹さんの等身大の話に癒やされます。若い出演者の方に電子マネーを教えてもらおうとする大竹さんとか、微笑ましいなって。

大竹 恥ずかしいけどね(笑)。この前もコンビニに行ったら、店員さんから「また来たか」って言われたりとか(笑)。でもさっきも言ったけど、もともとは高卒のチンピラだからね、聞いてくれる人に向けて、背伸びして何か良いことを言おうと思っても無理なんだよ。テレビは短いから誤魔化せるけど、ラジオはそうはいかないから。どんどん日常に近づいてきてるのが、今の俺のラジオだと思うね。

――ゴールデンラジオでは、そういう飾らない大竹さんの日常が話される一方で、ウクライナ情勢のお話もされていますよね。大竹さんはそういった社会情勢のお話をされるときも、事実と自分の主張は語りつつ、リスナーの方に「俺はこう思うんだけど、皆さんはどう思いますか?」という姿勢を崩さないところが、聴く側としては安心します。

大竹 若い頃は、年を取ると、もっといろいろなことを断言できると思ってたんだよ。年上のジジイから決めつけられることばかりだったから、自分もあんなふうになるんだって思ってたんだけど、そうじゃなかった。年を重ねれば重ねるほど、知識や思考の幅が広がってくるけど、逆にそれで余計に迷うことが多くなってきたんだよ。じゃあ、若い頃に俺に指図してきたジジイはなんだったんだよ!って腹立ってきてさ(笑)。

――あはははは!(笑) でも、その話を聞いて思い出したのが、昔、大学生をたくさん集めたTV番組で、大竹さんが急に怒り出したことがあって。

大竹 あったね、そんな番組。

――若者が意気揚々と夢を語るんですけど、いきなり大竹さんが「お前ら、よく将来の夢とか話せるな! 俺ですらまだ将来の夢なんか決まってないのに」って怒り出して。一見、理不尽なんですけど、でもそういうものかもしれないなって思って。今でも早めに夢を持つことがいいこと、みたいな風潮ですけど、当時の大竹さんくらいの年齢でも決まってないんだって、少しホッとしたんです。

大竹 思い出してきた。大学生がみんな、すごい夢を語るのよ。それを聞いてたらだんだん腹立ってきて、“この中でその夢が叶うヤツなんか1人いたら良いほうだろ”って思って(笑)。

――そう、そのときも「これからは年功序列じゃなく、能力制にするべきだ」みたいなアンケートがあって、スタジオにいる大学生のほとんどが賛成で、大竹さんが怒っていました(笑)。

大竹 だって、50人いて、45人が能力制に賛成なんだぜ? バカかよ、50人いて能力制で生き残れるのは良いところ1割だよ、生き残れない45人が賛成したお前らだって、なんで気づかねえんだって。まあ、若い子の夢を砕いて悪いな、とは思ったけど、途中からカメラも俺を撮らなくなったし(笑)。

――(笑)。あと、ゴールデンラジオを聞いていて思い出すのは、大竹さんが「俺は自分がやることに関しては、チャップリンみたいな濡れた表現はイヤなんだ、マルクス・ブラザースみたいに乾いていたいんだ」というようなことを仰ってて、「でも、見るのに関してはチャップリンも好きだし、自分の中にそういう要素があるのもわかってる。だから、エッセイとかには濡れた表現が出てくるのかもしれない」って言ってたのが印象的だったんです。大竹さんにとって、ラジオもそういう濡れた要素が出てくる表現なのかもしれないな、って。

大竹 あのね、それで言うと間違っているかもしれないけど、濡れてるヤツって乾いてることをやりたがるし、乾いてるヤツは濡れてることを上手にやれるんだ。例えば、伊集院静さんの作品を読むと、濡れたことを書いているけど、たぶんご自身の本質は乾いているんじゃないかなって感じるね。自分が乾いているからこそ、濡れた部分に目が行く。逆に俺とか、本質が濡れているヤツは、自分が濡れた場所にいるから、逆に乾いたことをやりたがるんじゃないかな。それができているか、できていないかは別の話なんだけど、心情的にはそうなんじゃないかな、と思うね。

≫≫≫ 明日公開の後編へ続く


プロフィール
 
大竹 まこと(おおたけ・まこと)
1949年(昭和24)5月、東京生まれ。きたろう、斉木しげるとシティボーイズを結成。テレビ番組「お笑いスター誕生」で10週勝ち抜き。映画、ドラマでは俳優としても活躍。