蛍原やフット後藤がかけてくれた言葉

――たくさんあると思いますけど、山形に移住して一番楽しかったことはなんですか?

本坊 なんやろなあ、大学生たちと古民家を直して、その中の女の子がサンドイッチ作ってくれて、“もしかして僕のこと好きなんちゃうか?”ってときは楽しかったですね。

――え! そこですか?(笑)。『プロレタリア芸人』のエイサーを習いに行って、そこで恋が始まるかも、のくだりみたいですね(笑)。そもそも、本坊さんって絶対モテるのに、なんでモテないって言い続けるんだろうって、10年前からずっと疑問でした(笑)。

本坊 あ! それに関してはホンマに言いたいことあって、たしかに「モテそう」とか、インスタライブのコメントとかでも「本坊さんカッコいい」とか言われるんですけど、向こうの気持ちはわかってるんですよ。言い方は悪いですけど、ちょっと僕にちょっかい出したいだけなんですよ。それでホンマに好きになっちゃったら、僕の気持ちはどうなんねん。一生添い遂げる覚悟あるのか?って聞いたら、尻込みする人ばっかりなんですよ!

――ちょっと、思いつめ過ぎでは…(笑)。

本坊 そんなら言うてくんな!って思いますよ。だから僕は、男性不信の女性の気持ちがよくわかります。

――(笑)。話題を変えまして、インスタライブといえば、オリンピックの開会式が見たいけど、電波状況が悪いから、ハンガーを持って立って見ていた本坊さんのインスタライブの配信が、一部で大きな話題になってました。

本坊 バッハ会長の話が長すぎて、アメリカの選手団ですら寝そべって話を聞いてたのに、僕だけそうしないとTVがうまく映らないから、ハンガーを持って立って見てたって話ね。なんで僕は立ってんねん、ていう。

――めちゃくちゃ笑いました。でも、そういうエピソードトーク的な側面もありつつ、『プロレタリア芸人』に比べて、今回の本はよりしっかり、本坊さんの私小説という趣きになっていると感じました。

本坊 そうですね、前回の終わり方からして、また本を書くときにどうしようかってのは、ずっと考えてたことなんやけど。でも、また刺々しい話ばかりするのも嫌だなって思って。だから、『プロレタリア芸人』を書いたときの自分も自分やけど、今の自分で、あの本のあとから現在までを書けたのはよかったかなって思いますね。

――なるほど。あそこからの本坊さんの変化というと、山形と農作業というのが大きいと変化だと思うんですけど、農作業から得た気づきってありますか?

本坊 農作業は、その作物を収穫するってことがゴールやけど、どんな農薬を使うのか、肥料はどれくらい使うのか、それだけでもそこに至るまでのアプローチはたくさんあるし、同じ作物でも土壌や気候によって大きく違ってくる。それってお笑いも一緒やなって感じました。

みんな笑いを取りたくてやってるけど、“人を傷つける笑いは嫌い”とか“他の人と被ってることは言いたくない”とか、それぞれアプローチの仕方があるわけですよね。若い頃は“あいつの笑いの取り方は気に食わへん”って思ったこともあったけど、こうやって農作業をするようになってから、向かってるところが一緒なら、アプローチや美学は“人それぞれあっていい”と思うようになりました。

――しっかり農作業をやっている本坊さんが言うからこそ、説得力があると思います。

本坊 実は今もね、畑が気になってるんですよ(笑)。ちょっと空き時間があったら、すぐに畑をいじりに行っちゃう。正直、肉体労働をやってるときは“あ、8時間過ぎてる、こっから何時間残業すんねん”とか思ってたけど、今は“あ、日の入りまであと30分や、じゃあ水やりと草むしりできるな”とか思うようになりました。

時には真っ暗闇の中、頭に懐中電灯つけて畑作業したりとか。働き方改革とは真逆やけど(笑)、受け身の生き方から能動的な生き方になりましたね。だから僕、本業でしんどい思いしてる人は、こうやって生きがい見つけるべきなんちゃうかな、と思いました。僕にとってそれが農業でしたね。

僕が山形に行ってから、蛍原徹さんが僕のことを「山形に行って、どんだけ刺々しいことを言うんかなって思ったら、角が取れて穏やかになったな。果たして、これが面白くなるかどうか俺にはわからんけど、すごくええと思うわ」って言ってくださって。僕自身、こうやって野菜を作って何がオモロイんかな、って悩んだこともあったんですよ。

若い頃の僕は、他人をギラついた目で見ることで、オモロいことを探してたし、その頃の自分が薄れていくのも感じてたんです。でも、蛍原さんも、フットボールアワーの後藤さんも「本坊の今の感じ、すごくええと思うで」って言ってくれて、それはすごくホッとしましたね。

――僕も本当にそう思います。最後に、ソラシドの今後の展望をお聞きしたいんですが。

本坊 たぶん、ソラシドは山形へ来てなかったら解散してたと思います。今でも、水口は水口で僕に対して、“まだ本坊のほうが売れてるな”って悔しい想いがあると思うんですけど。でも、東京にいるときよりは遥かに健全やなと思いますね。

水口は、得意の料理を使って頑張ろうとしてるし、それは山形っていう食材が豊富な地域だからこそ活かせると思ってます。あとは、農作業体験と漫才を組み合わせたイベントもやっていきたいんですよ、お客さんがお芋さんを抜いた合間に、僕らが漫才を披露したりとか。

――すっごくいいですね!

本坊 だから、もっと県民の人に愛されたいし、売れたい。やっぱり、山形の人が一番喜んでくれるのは、全国放送のTVに出たときなんですよ。“住みます芸人”やからって「東京のテレビは出ません」っていうのは、ただの言い訳やんって思ってるから。僕なんかがおこがましいと思ってますけど、東京に仕事で呼ばれたらすぐに行くし、逆に東京のメディアが山形へ来たとき、絶対に選ばれる存在になりたい。

今だと、リモートでも必要とされる芸人になりたいし、ここに住みながらでも、できることをやっていきたいです。あと、具体的に言うと宮川大輔さんMCの『満天 青空レストラン』に出たいですね、生産者とゲスト、どちら側でも出られるんで(笑)。


プロフィール
 
本坊 元児(ほんぼう・がんじ)
1978年生まれ、愛媛県松山市出身。吉本興業に所属するお笑い芸人。2001年1月、水口靖一郎とコンビを組み「ソラシド」を結成。現在は「山形県住みます芸人」として活動しつつ、『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)の密着をはじめとして、さまざまな番組への出演で話題となる。現在、「南陽市ラーメン大使」「やまがた特命つや姫大使」「西川町月山ふるさと大使」を務めており、著書に『プロレタリア芸人』(扶桑社文庫)がある。特技はDIY、農業。趣味は沖縄三線。Twitter:@honbouganji、YouTube:ソラシド 本坊