人が良すぎて腹が立つ!? 住んでわかった山形県の魅力

――この本では『プロレタリア芸人』を出版する前から、“住みます芸人”になり、山形在住となるまでの複雑な心境も書かれていますよね。本坊さん的に、“住みます芸人”を選んで良かったと思いますか?

本坊 ホンマに良かったなって思います。本の最後のほうにも書いてるんですけど、“もう東京に戻ることはないかな”とさえ思いますね。

――正直、そこまでポジティブな感じで選んだ“住みます芸人”ではなかったと思うんですが、そんな本坊さんが「東京に戻ることはない」って言えるほど魅了された山形の魅力ってなんですか?

本坊 山形は今でこそ果物王国とか、おいしいものがいっぱいとれるイメージですけど、そもそも土壌が豊かな地ではないんですよね。郷土料理も「ウコギ」とか「ひょう」など野草を使ったものが多いんですけど、それも江戸時代とか飢饉のときに、食べるものがなくなって、知恵や創意工夫でなんとかしようとした結果、生まれた料理なんです。

現状あるものでなんとかしよう、というのがカッコいいなって思ってます。特にコロナ禍になってから、仕事にも制限が出てきて、じゃあYouTubeをやってみよう、インスタライブをやってみようとか、耐え忍びつつ、創意工夫でなんとかする、山形的な考え方には救われました。

――あと、山形の人はあまりお金儲けに興味が無いようだ、という記述も印象に残ってて。

本坊 これ、ホンマにずっとそう思ってるんですよ。とても大きなワラビ園をやってるおじいさんがいるんですけど、収穫体験させてもらったんですが、大量のワラビが取れるんですよ。「これ、売ってるんですか?」って聞いたら、「知り合いに配ってるんだ」っていうから、“は? 何してはんの、この人?”って思って。

――あはははは(笑)。

本坊 自分も農業をやってるからわかるんですけど、肥料とかの費用もバカにならないんですよ。でも“腐らせたくないから”ってだけで知り合いに配ってるんです、いや、どんだけエエやつやねん! で、このほかにも、例えば何かをいただいて、金銭が発生するとして、お金をもらうときにめちゃくちゃ申し訳無さそうにするんですよ。

「あの~、お金もらってもいいですか?」「 いや、当たり前やん!」みたいな。正直、吉本興業みたいなアグレッシブなやつがグイグイ来たら、山形県で無双できるんちゃう?って冗談を言ってたら、その昔、近江の商人が来て、山形で無双した歴史があるらしくて「昔からかい!」みたいな(笑)。ホンマみんなええ人なんです。

▲2020年、自分の畑が豪雪に見舞われ、失意のなかで大根を収穫しに行く本坊

――山形の方の人柄や風習を、本坊さん独特の表現で愛情たっぷりに描いている箇所は、とても面白いです。

本坊 あと、山形空港ってあるんですけど、駐車場無料なんですよ。嘘やん、山形は完全に車文化なんやから、少しでもお金取ったら儲けられるやん! いやおもろいし、ええことなんですけど、人が良すぎて腹立つ身内とかいるじゃないですか。その感覚なんですよね。

――(笑)。でも、本坊さんの口から身内って言葉が出てきたのがいいなと思います。

本坊 そうですね、その感覚は大阪、東京にいたときにはなかった感覚ですね。お金に興味が無いように見える県民性もありがたいんですけどね、消費者の立場からしたら。