冷めた目で見ていた“住みます芸人”を本坊が変えた

――僕はこの本、本当にいい本だと思っていて、全体的に本坊さんの文体がドライというか、自分たちのコンビのことを書くときも、そこまで大仰に描いていないのがいいなって感じました。相方の水口さんが、昨年7月に生配信中の事故で大やけどを負ったことも、そこまで強調して書かれていないし、ラストも余韻を残さず終わってる。

本坊 うーん、ちょっとええように書こうとしてるとか、ここは泣いてほしいなって思った時点で、自分のことをあざとくて見てらんなくなっちゃうんですよ。照れてしまうというか。

――芸人は笑わせてナンボ、みたいな価値観はステレオタイプであまり好きではないですが、本坊さんの生き方や文章から、それを地で行っているように思っています。特に、農作業をしながらジョーカーのメイクをしている本坊さんを見ると(笑)。

本坊 (笑)。ありがとうございます。

――あと、吉本の偉い方が山形に来る、ってときに、“うわ、怒られるかも”って思った本坊さんは、めちゃくちゃ物騒なことを想像して、なおかつそれを本気で実行しようとする描写がこの本に出てくるんですけど、それがエグく感じないし、“ちょっと本坊さん、書きすぎ!”とも思わない。普通に笑えるのって人間性においても、文学面においてもすごい才能だなって思うんですよね。

本坊 いや、単純に弱々しいフォルムやからやと思います(笑)。でも、あそこに出てくるのは吉本の専務なんですけど、イチ芸人に対して「住みます芸人って、こういうことやったんや!」ってわざわざ伝えに来てくれるって、“ええ会社やな”と思いましたね。まあ、その人をどうにかしようと少しでも思ってた自分もおかしいけど(笑)。

――僕はこの一連を読んで、『サボテンブラザーズ』っていう映画を思い出しました。あの映画は、作り物の西部劇を見てそれを信じた人たちが、俳優たちに本当の悪党の退治を依頼する話ですけど、そもそも農作業をするために山形行ったわけじゃない本坊さんのやったことが「それが吉本がやりたかったことだよ!」って言われるところが、本職ではないけどそこで結果を出す、みたいなこととダブりました。

本坊 なるほど。“住みます芸人”っていうのは、芸人が「その地域のために頑張ります!」って、吉本としては言ってほしかったんやと思うんです。でも、当然ですけど、そういう人たちばかりじゃないですよね。なんなら、そういう人の方が少ない。僕らの場合にしても、東京で飯を食えてないからってのが大きくて、就任当時は地域のことまで頭が回ってない。それでいて会社は1つ1つの地域までしっかり見ているわけじゃないし、ってのもあって。正直、最初は冷めた目で見てたんです。

――たしかに、最初のうち“住みます芸人”という制度自体に対して、懐疑的な目を向けてる本坊さんの姿も本に出てきます。

本坊 芸人はみんなそうやと思うんですけど、大なり小なり尖っているし、当時の僕なんかその最たるもんやったと思うんです。でも、今は全然変わりましたね。

――どんなところが変わったんでしょうか?

本坊 丸くなったとかそういうことではなくて、自分で動かないと何もならない、与えられた仕事をこなしているだけになってしまう、と気づいたのが大きいと思います。周りは劇場も、ましてや定期的にお笑いをする所もない。そういう場所で、どう自分でやっていくかしかないんですよ。

正直、ありがたいことに、ほかの“住みます芸人”から「どうすれば良いですか?」って相談を受けることもあるんです。それで話を聞いて、だいたい“いや、自分が動いてへんだけやろ”って思うことが多いです。何か仕事の提案を受けても、「僕のやりたいことはこれじゃない」って愚痴って、そのくせ自分からは新しいことは提案しない。いや、売れてない原因それやん!って。

――たしかに。あと、誤解を恐れずに言うと、山形へ行く前の本坊さんは、愚痴る側の人間だったような気がしています。

本坊 いや、そうやと思います。その愚痴も別に面白くしようとしてねーし、みたいな態度を取って、そのやさぐれ方が芸人周りではウケてたんかなと思いますけど(笑)。でも、周りからどう見られてたかはわからないんですけど、舞台上やテレビで話す愚痴は、絶対に自分を悪くして落としてたんです。これは自分の中で決めていたこと。その美学、ロジックもないまま会社の悪口を言ってる芸人が嫌いで……。

――本坊さんがそういうスタンスになられたのが感動しますし、ちゃんとまだ尖った所も残ってたのがうれしいです(笑)。

本坊 (笑)。いや、ホンマに腹立ってるだけです。