好きなことをここまで続けてこれた理由

――房野さんにお聞きしたかったんですが、好きなことを仕事にするって、どういうことなのかって思うことがあって、房野さんの場合は好きなお笑いを仕事にして、楽しいこともツラいこともあったと思うんですけど、ここまで続けてこられた理由はなんだと思いますか?

房野 これ、先輩から言われたことなんですが、やっぱり卵が先か鶏が先か、みたいなことと同じで、好きでやっているのか、それとも褒められるから自分はコレが得意なんだと思って好きになるのか。僕の場合、もちろんお笑いは好きだったんですけど、初めて相方と舞台に立ったときのネタがウケたんです。それはすごく大きいなと思うんですね。

――それはたしかに忘れられないかもしれませんね。

房野 小さい頃から「お笑い芸人になるぞ!」という子どもではなかったんです、もしかしてそういう熱い想いがあったら、一番最初の舞台でスベってたら辞めてたかもしれない。文筆業もそうですね、書くごとに褒めていただくことが多かったんですけど、これも全然ダメって言われてたら、辞めてるでしょうね。

今も絶賛書いてるところなんですけど、本当めちゃくちゃ没頭しちゃうんですよ。それですごく悩んじゃうんですけど、でも苦しいことより、楽しいことのほうが勝つから続けているんだと思います。

――なるほど、やはり好きなことを仕事にすると、ツラいことがあっても、圧倒的に楽しいことのほうが勝つってことですね。

房野 そうだと思います、ツラいときは本当にツラいですけどね(笑)。

――この本を読んでいて感じるのは、文章が全て房野さんの話し言葉で再生されることです。それって難しいし、あまり過ぎてしまうと、文章自体が軽くなってしまう。だから、すごくいいバランスで書かれているし、たぶん普段の言葉遣いが上品なんだろうなって感じました。

房野 それはすっごくうれしいですね。同じことを幻冬舎の袖山さんにも言われたんですけど……その褒めていただいたところだけ、大きな文字で赤字で使ってもらっていいですか? 僕のこれまでの言葉とかどうでもいいんで。

――あははははは!(笑) でも、こういう歴史の本だと、どうやって歴史や日本史に興味がない人を振り向かせるか、の勝負な気がしていて。

房野 あ、でもそれで言うと、僕はもうそこをあまり意識しないようにしているというか、意識し過ぎると見えなくなりがちなところを注意して見ているかもしれないです。

――具体的に言うと、どういうことですか?

房野 自分が歴史が好きな子どもだった頃に、出てくる言葉や扱う出来事のハードルが高かった歴史本がたくさんあったんですね。それは自分がその後、歴史が好きになったから今となっては理解できるけど、そのわからない1冊の本で興味がなくなってしまうかもしれない。

だから、自分が書くときに、言葉も当たり前に書くんじゃなくて「もしかしたら将軍って普通に書いているけど、わからない人もいるかもしれないな」って、毎回立ち返って考えてますね。

――たしかに、好きであればあるほど気づきにくくなるところですね。

房野 あと、技術的なことで言うと、削る所と引き伸ばす所のポイントがわかるようになってきたかもしれません。ここの説明は歴史的にはいろいろあったところだけれど、すっ飛ばしても意味は通じるな、とか。もしここを深掘りしていくと、ライトな読者は離れていくな、というところを気づいて飛ばせるかどうか。それも、歴史好きな自分と、ライトな歴史好きに向けての戦いではあるんですけど。

やっぱり、自分が好きなところは語りたくなるんですよ(笑)。でも、そこをどれだけ我慢してスッキリ紹介できるか。逆に、ほかの歴史本は取り上げてないけど、僕個人は面白いと思っているところはきちんと紹介する。そのバランスはいつも気をつけています。