歴史好き芸人がオススメする歴史マンガ
――日本史の先生のお話を聞いているような気持ちになってきました(笑)。でも大事ですよね。これからの季節、夏休みに入って、新たに日本史を勉強し直そうとか、自由研究で日本史を取り上げようと思う方もいるかも知れませんが、そういう方にオススメの時代はありますか?
房野 やはり、『鎌倉殿の13人』の舞台になっている、平安末期から鎌倉時代から入るのが、今は敷居が低いですよね。『鬼滅の刃』が大きなブームになっているときは、鬼殺隊って十二支がモチーフになっているけど、実は十二支って、十二支と十干(じっかん)で60通りあるんだよ、って感じで話題をつなぎやすいんですよ。やはりタイムリーなもの、少しでも興味があるもので触れてほしいなって思います。
――なるほど、たしかにそれだと敷居が低いですよね。
房野 よく、お子さんに日本史を好きになってもらうには?って相談も受けるんですけど、僕は「無理に好きになってもらわなくても大丈夫ですよ」って答えます(笑)。
――えっ! 本当ですか?
房野 別に突き放しているわけじゃなくて、嫌いなものを好きにならせるって相当難しいですから。それよりも、僕だったら“知っておくことは無駄なことじゃないよ”って伝えます。たとえ日本史が嫌いでも、聖徳太子がこんな人間で、こういう考えを持っていて……という知識は、会話や生きていくなかで必ず役に立つと思ってるんです。
“昔のことだし、自分には関係ないよね”で切り捨てるんじゃなくて、歴史を知っておくことで、今の時代の出来事にも当てはめることができる。例えば、会社勤めのなかで理不尽なことが起こっても、でも“あの時代にあの人はああ言ってたし、最終的には痛い目みたよな”って置き換えることで、自分の為にもなるんです。
――たしかに、ビジネス書とか自己啓発系の本には、よく歴史の例え話が出てくるイメージがあります。
房野 そうなんです。だから基礎知識として知っておいたほうがいい。
――これまでいろいろなテーマで書かれてきた房野さんですが、「好きな時代やテーマで書いていいよ」と言われたら、どこを書きたいとかありますか?
房野 それで言うと、ありがたいことに、その時その時に書きたいことを書かせていただいているな、と感じています。ただ、ずっと興味があるのは“最初の戦国大名”と言われる北条早雲ですね。僕の地元の岡山県井原市に深く関わってる武将というのもあるんですが、教科書ではだいたい1~2行で紹介が終わっちゃう存在でありながら、諸説があって面白い人物です。
近年研究も進んでいるので注目していたんですが、『ビッグコミックスピリッツ』でゆうきまさみ先生が早雲を主人公にした『新九郎、奔る!』という漫画を連載されていて、先を越されたな~って(笑)。
――(笑)。
房野 それは冗談ですけど、この漫画が本当に面白くて、しかもきちんと近年の研究が進んでいる定説をしっかりと取り入れていて、見事だなと思います。『鎌倉殿の13人』を見ていても感じるのですが、きちんと史実に基づきながら、史実でわかり得ない部分で、いかに見るものの興味を引くかだなって思いました。
――たしかに、『鎌倉殿の13人』の盛り上がりは、日本史に明るくない人々も巻き込んでいますが、そういうところが魅力なのかもしれませんね。
房野 ですね。『週刊少年ジャンプ』で連載されている、『暗殺教室』で有名な松井優征先生の『逃げ上手の若君』もそうです。これは北条時行を主人公にしていますが、連載が始まったときは歴史好きのあいだでは“これをジャンプでやるんだ!?”って、ザワっとしたんですよ。だって、北条時行って高校の教科書でも出てくるか出てこないかくらいの人物なんです。
――へえ~! でも、それを知らずに面白い漫画として読んでました。
房野 はい、面白いんですよ、それがすごいなって思います。だから、日本史って知れば知るほど面白いし、背景を知っておくと楽しめるコンテンツが増えると思います。
――見聞を広げるって大事だと改めて思いました。最後に、今後の房野さんの展望をお聞きしたいのですが。
房野 文章はこれからもずっと書いていきたいなと思ってますし、その時その時で日本史のなかでの自分の興味も変わっていくので、飽きるってことが無いんですよね。あと、ありがたいことに子どもに携わる仕事をいただく機会が多くて、そこで改めて、自分の中の“次世代に歴史の面白さを伝えていきたい”という気持ちが強いことに気づきました。自分の文章をきっかけに、歴史、日本史が好きになったらうれしいなと思います。
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