夏に向けて「できるものならしたい!」と誰もが思っているダイエット。ダイエットはまず「腸活」からです。その腸活の基本といえば、腸内フローラを整えること。腸内フローラというキーワードが浸透したのは最近のことですが、江戸料理・文化研究家の車浮代氏によると、江戸っ子たちは「冷や飯」を日常的に大量に食べることで腸活を実践していたようです。

江戸っ子の健康のカギは冷や飯にあり?

1日に5合もの白米を食べ、ギリシャ彫刻のように筋骨隆々の体をしていた江戸っ子たち。彼らの食養生のカギの一つは、“白米の食べ方”にあった、と私は考えています。

その食べ方とは、昼と夜に食べる冷や飯。この冷や飯こそが、江戸っ子の食養生の大きなポイントです。

▲江戸っ子の健康のカギは冷や飯にあり? イメージ:Graphs / PIXTA

冷や飯の健康効果について研究されているのは、文教大学教授で管理栄養士の笹岡誠一先生です。笹岡先生は、著書『炭水化物は冷まして食べなさい。』(アスコム刊)にて、冷や飯の健康効果について、非常に簡潔にわかりやすく解説されています。

米などの炭水化物は、簡単にいうと「炭水化物=糖質+食物繊維」と表されます。ただ白米は、玄米から糠や胚芽をとり除いているぶん、食物繊維の量が減っています。それでも、100グラムの中に0.5グラムの食物繊維は含まれています。

しかも、米には「レジスタントスターチ」という難消化性のでんぷんが含まれます。レジスタントとは“消化しにくい”という意味で、スターチは「でんぷん」の意味。このレジスタントスターチは、「糖質でありながら、食物繊維と同じか、それ以上の働きをする」と笹岡先生は伝えています。

食物繊維には、水溶性と不溶性という2つのタイプがあります。腸の働きにはどちらの食物繊維も不可欠ですが、レジスタントスターチは両方の食物繊維の働きをするとのこと。そのため、米をしっかり食べていると、効率よく腸内環境を整えていくことができます。

このレジスタントスターチ、なんと、炊きたてのあつあつご飯より、冷や飯のほうが1.6倍も多くなる、とのこと。

レジスタントスターチの存在が発見されたのは、1980年代。江戸っ子は、その健康作用を知らないながらも、冷や飯を日常的に大量に食べることで腸活を実践していたのです。

冷や飯が腸活によいのは、江戸っ子の糞尿にまつわる逸話からもうかがい知れます。

江戸時代、糞尿は貴重な肥料となりました。幕府や大名屋敷の糞尿は「きんばん」と呼ばれ、江戸近隣の農民とのあいだで非常に高値で取引されました。長屋にある便所からくみとられた糞尿は、きんばんよりランクが落ちて「町肥」。それでも農民たちは喜んで買いとってくれるので、長屋の大家のよい収入源になっていました。

江戸時代、家賃を滞納する住人(店子)も、大家は大目に見ていました。それもこれも糞尿をしてくれるからで、空家にしておくよりマシだからです。江戸時代は「糞尿をする」というだけで、人の役に立てたのです。

人糞のもとの大半は、毎日の冷や飯にありました。江戸っ子は野菜もよく食べましたが、今の人のように生野菜は食べません。ふだんの日に食べる野菜は、味噌汁の具と漬物が主です。現代人は「排便力を高めるため、野菜をたくさん食べないと」とがんばりますが、江戸っ子はレジスタントスターチを豊富に含む“冷や飯をたっぷり”とっていたのです。

冷や飯は「直腸」まで元気にしてくれる究極の腸活食

最近では「腸内フローラ」という言葉を、よく耳にするようになりました。

皆さんもご存知のとおり、私たちの腸にはたくさんの細菌がいて、消化吸収や排泄のために働いてくれています。その腸内細菌は、腸での働き方から便宜上「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」と分類して呼ばれています。

腸内フローラとは、さまざまな細菌が腸の中で集落(コロニー)をつくって、お花畑のように群生している様子からつけられた名称です。腸内フローラは、多種多様な細菌が数も多く活発に働いている状態が理想的です。そして、腸内フローラが豊かならば、腸の働きも活性化すると考えられています。

腸内細菌は、私たちが食べたものをエサにします。なかでも食物繊維は、腸内細菌の大好物で、とくに善玉菌の活動源になります。そのため「腸活には食物繊維を」と、たびたび言われているのです。

食物繊維のなかで、善玉菌が大好物とするのが水溶性のタイプ。水溶性食物繊維は、水に溶ける食物繊維で、水を含むとドロドロのゲル状になります。

一方、不溶性食物繊維は腸内細菌のエサにはならないものの、繊維がかたく、水を含むと膨らんで腸内の不要物をからめとりながら大便をつくるとともに、腸の動きをよくします。

いすれも腸活には必要な栄養素です。この食物繊維の両方の働きを、レジスタントスターチは腸の中で行います。善玉菌のよいエサにもなるし、大便を大きくして排便力を高めてもくれるのです。

さらにすばらしい働きがあることも、笹岡先生は述べています。「レジスタントスターチは、大腸のもっとも肛門側にある『直腸』までしっかり元気にしてくれる」というのです。

直腸は、口からもっとも遠い位置になり、大腸がんが起こりやすい部位でもあります。健康上においても、重要なところです。

▲冷や飯は「直腸」まで元気にしてくれる究極の腸活食 イラスト:Simao55 / PIXTA

口から入った水溶性食物繊維は、善玉菌によって、直腸に届く前にほとんどが食べられてしまいます。では、不溶性食物繊維はというと、腸活には必要ですが、腸内細菌のエサにはなりません。ところが、直腸にはビフィズス菌など健康増進に活発に働いてくれる善玉菌が多くいます。その直腸にまでレジスタントスターチはしっかり届き、善玉菌のエサになってくれます。

そんなレジスタントスターチが、冷や飯にはたっぷりと含まれています。だからこそ、冷や飯は究極の腸活食といえるのです。

※本記事は、車浮代:著『江戸っ子の食養生』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。