ダイエットには腸活。腸活といえば腸内フローラと、もう一つのキーワードが「レジスタントスターチ」です。冷や飯にはレジスタントスターチがたっぷりと含まれています。江戸料理・文化研究家の車浮代氏によると、江戸っ子が一番よく実践した冷や飯の食べ方は、現代では行儀が悪いとされる「ぶっかけ飯」でした。
食事の1時間前が腸活のポイント
江戸っ子は、朝にご飯をお釜で炊くと、お櫃(ひつ)に移して保存しました。それによってレジスタントスターチを効率よく増やしていました(意識して行っていたわけではありませんが)。レジスタントスターチは、水分を飛ばすことで増えることがわかっています。
木のお櫃には、ご飯の水分を吸収する性質があります。あつあつのご飯の水分をほどよく吸収してくれるのです。
現代の暮らしでは、炊いたご飯を、炊飯ジャーの保温機能を使って温かいまま保存することが多いと思います。温かいご飯にもレジスタントスターチは含まれています。しかし、冷や飯にしたほうが1.6倍も増えます。
では、現代を生きる私たちは、どのようにすれば、効率よくレジスタントスターチを摂取できるのでしょうか。
文教大学教授で管理栄養士の笹岡誠一先生の著書には、ご飯を常温で1時間置いておくだけで、レジスタントスターチが増えると記しています。冷凍にして電子レンジで加熱してもよいのですが、常温で1時間置いたほうがその量は多くなります。
私の場合は江戸っ子にならい、炊きたてのご飯はまず温かいまま頂いて、次の食事の分を茶碗によそって、あえて冷や飯や、握り飯を握っておくことがあります。そうしてレジスタントスターチを効率よくとり、白米を腸活に活かしています。それに、冷や飯をよく噛んで食べると、よりお米の甘味が感じられるように思うのです(炊き込みご飯の場合は特に、食材の味がしっかりと伝わります)。
一方、炊飯ジャーのスイッチを切ってご飯を冷ます方法も考えられますが、これでは、レジスタントスターチを増やせません。余分な水分が抜けないからです。
ところで、「御飯(ごはん)」と「飯(めし)」の違いをご存じですか。
通説ではありますが、炊きたての温かい白米が「御飯」で、冷たいものが「飯」。朝食に食べる炊きたてのご飯は、江戸っ子にとっては「御」の字をつけるほど“うまいもの”だったのです。
ちなみに、「江戸三白」という言葉があります。これは、江戸っ子の好きな、白い食材ベスト3を示した言葉で、「白米」「豆腐」「大根」です。江戸っ子が、いかに銀シャリを愛していたかをうかがえる言葉です。
ぶっかけ飯は江戸っ子の立派な養生食
では、江戸っ子は冷や飯をどのように食べていたでしょうか。
いちばん多かったのは、朝の残りの味噌汁をかける「ぶっかけ飯」です。仕事から帰ってきたら、「今晩は、これでいいか」とかき込む。味噌汁は温めることもありましたし、冷えたままぶっかけることも多くありました。夜遊びに出かけなければ、あとは寝るだけですから、ご馳走を食べる必要はなかったのです。
今では、ご飯に味噌汁をかけようものなら、行儀が悪いと注意されてしまいます。「猫まんま」とも呼ばれますね。猫まんまというと、鰹節をかけたご飯もありますが、いつしか、味噌汁をかけたご飯もこの名で呼ばれるようになりました。
しかし、ぶっかけ飯は消化もよく、睡眠前の胃腸にかける負担も少なく、健康にもよい、立派な養生食でした。
さらにさかのぼれば、戦国時代の武士たちも、冷や飯に冷めた味噌汁をかけて食べていました。「武士にては必ず飯わんに汁かけ候」と記されたほど、日常的な食べ方だったのです。武士は、このぶっかけ飯を主食にしながら、戦時下には、数十キロもある武具をまとって、遠い戦場まで走り、戦っていました。そう考えると、ぶっかけ飯は、相当なスタミナ食ともわかります。
現在も、宮崎県の郷土料理に、冷たい汁をご飯にかける冷や汁があります。冷や飯に冷えた味噌汁をかけて食べるぶっかけ飯は、冷や汁に感覚が似ています。
また、有名な「深川めし」も、もとはぶっかけ飯です。
江戸時代、海に面していた深川では、アサリがたくさん獲れました。深川の漁師たちは、醤油、または味噌で煮たアサリに葱を加え、船の上で豪快にご飯にぶっかけて食べていました。それを当時は「ぶっかけ飯」や「浅蜊飯」と呼んでいたのです。「深川めし」と呼ばれるようになったのは、近年になってからです。
現在の「深川めし」は、江戸時代と同じく煮汁ごとぶっかけるタイプと、炊き込むタイプがあります。炊き込むタイプは「深川めし」を持ち運びできるように、ずいぶんあとになって考案されたものです。
あわただしい朝や一人で食べる昼食、夜遅くに帰宅して「何かちょっと食べたいな」というときには、ぶっかけ飯がおすすめです。ぶっかけ飯の上に、鰹節をたっぷりかけたり、くずした豆腐や納豆、青菜のお浸しなどをのせたりしても、おいしいですよ。
※本記事は、車浮代:著『江戸っ子の食養生』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。