ニュースクランチで小説『45』を連載中の福田健悟の過去は複雑だ。本人がこれまで綴ってきたように、高校時代には不良の道へ進み、地元の岐阜県で最大の規模を持つ不良チームのリーダーとなった。そして18歳の頃には留置所に2週間、鑑別所に2週間の計4週間を更生施設で過ごした経験までしている。そんな彼が選んだ道は、お笑い芸人であり、文章を書くことだった。好きなことの二刀流――お笑い芸人として、また執筆家として、現在の活動や将来の夢について聞いてみた。
小説を書くことで過去の後悔が解消されていく
――まずは好評連載中の小説『45』のことからお聞きしたいんですが、連載もここまで進んできて(6月末時点で38回)、ご家族や芸人仲間など周りの反応はいかがですか。
福田 家族からは、お姉ちゃんが「実の弟に不覚ながらも涙させられた」ってLINEをくれました。別に“不覚ながらも”はいらんやろと思ったんですけど(笑)。でもやっぱり、そう言われるとうれしいですよね。あと、本に興味がなかった人から「僕の連載を読んでから、ほかの本も読むようになった」っていう感想が届いて、すごくうれしかったですね。
――それって最高の褒め言葉ですね。
福田 はい、自分もそういう経験があるので。映画とかも一緒で、1つの作品をキッカケにいろんな映画を見るようになったりしますよね。そのキッカケになれたのがうれしいです。
――最初にお姉さんのお話が出ましたが、若い頃はご両親にもたくさん迷惑を掛けてきてきましたが、反応はいかがですか?
福田 両親も僕の連載のことは知っててくれて。去年、父親の体調が悪くて実家に帰ることがあったんですけど、そのときにいろいろ話しました。あと、最初に話に出てきたお姉ちゃんとは、別のお姉ちゃんがいるんですけど、すごく応援してくれて、いろんなところで宣伝までしてくれて。
なのに、小説のなかでは、そのお姉ちゃんのことを、「ストーブの前でおならをしたら、ピーピーって換気のお知らせが鳴った」と紹介しちゃったんで、「恩を仇で返された!」って言いながら笑ってましたね(笑)。
――この連載が、ご家族への恩返しになるといいですね。
福田 そうですね。特にお父さんは、今ちょっと体調が悪いっていうのがあるんで。そういえば僕、千原ジュニアさんがMCを務める『2分59秒』 というABEMAの番組に出演させてもらったんですけど、それを見て笑ってくれたそうです。
お父さんは普段、痛み止めを飲まないといけないんですけど、その日だけは痛み止め必要なかった、と。それを聞いて、「ああ、お笑い芸人としてやりたかったことが1個だけ成し遂げられたな」って思いましたね。
――若いときはひたすらにヤンチャして、お父さん、お母さん、お姉ちゃんたちに迷惑をかけたと思いますが、年齢を重ねて、家族の絆みたいなものって改めて感じたりするものですか。
福田 やっぱり当時のことは、自分自身の中ではずっと引っ掛かってたところがあって。その当時したことを悔いる部分がずっとあったし、それは今でもあるんですけど。逆に、この小説で喜んでくれる人がいるっていうので、プラマイゼロとまではいかないですけど、やっぱり解消された部分がありますね。
お笑いも本も松本人志さんの影響を受けた
――今回、「好きなことを仕事にする」というのがインタビューの主旨ですが、そもそも本を読むようになったキッカケは?
福田 やっぱり、若かりしときの過ちがキッカケになってます。警察に捕まって、鑑別所に入っちゃうんですけど、それまではまったく本は好きじゃなかった。なんだったら嫌いだったんですけど、鑑別所では本を読むことしかやることがなくて。そこで本を読んだときに、自分の中でものすごく大きな衝撃が走ったんです。
そこからは、もうずっと本に助けられて生きてきて、「自分もいつか本を書いてみたいな」っていう思いを抱き続けたところに、昨年、吉本興業から出版オーディションの話が来たんです。「これは渡りに船だな」ってことで迷わず挑戦しました。
――当時、衝撃を受けたのはどんな本だったんですか?
福田 鑑別所で最初に手にした本は武田鉄矢さんの本と、元暴力団の人が書いた本でした。あとはスピリチュアルの本。「これからは更生しないといけない」って決意しても、やっぱり自分の過去とのギャップがあり過ぎて、気持ちをコントロールしていくのがすごく難しかったんです。今までの罪悪感とかもあったりとかして、頭の中がぐっちゃぐちゃになって、感情がちょっとおかしくなってるときに読んだんですけど、当時はすごく助けられましたね。
――そこから本の虜になったんですね。
福田 もうめちゃくちゃ読んでますね。鑑別所を出てから、もう今に至るまでずっと。例えば、対人関係で悩んだら“コミュニケーション”ってネットで検索して、パッと目に飛び込んできた本を読んで。ほかにも体調がなんとなく優れないなと思ったら、“健康”って入れて。結局、悩みって尽きることがないと思うんです、となると本を読むことも尽きることがないわけで、「ある意味、幸せなことなのかも」って思うぐらい本が好きですね。
――吉本芸人さんたちもたくさん本を出してらっしゃいますけど、印象に残ってる本ってありますか?
福田 僕は小さい頃から漠然と「お笑い芸人にいつかなりたい」って、ずっと思ってたこともあって、ダウンタウンの松本人志さんにすごく憧れていたんです。その気持ちは今でも続いてるんですけど、松本さんの本は全部読みました。内容は基本的にお笑いのことで、シリアスな感じではないんですけど、ある本で「明けない夜はない」って書いてあったんですよ。それを松本さんが言うから、すごく自分にも刺さったというか。
当時の僕は、例えば先生の話とかには聞く耳を持てなかったんですけど、やっぱり自分が尊敬してて、一番憧れてる存在の人がそう書いていて、その時代に僕は真っ暗闇の中にいたんですが、漠然と悩みが解消されたんですよね。
――芸人になっても、本を書きたいという気持ちは、大きくなっていったんですか?
福田 そうですね。松本さんの影響が大きいんですけど、本ってちょっと頭良さそうなイメージがあるじゃないですか。実際、松本さんってあんなに面白いことばっかりしてらっしゃるのに、本では真面目な一面を見せてくれるというか、すごく頭のいい感じが伝わってくるんですよね。当時、鑑別所から出て、まずは「芸人になる」っていうのがひとつと、あとは「本を書いていきたい」っていう夢が大きくなっていきました。