命の話を子どもたちにわかりやすく伝える

――最近では、賞も受賞された絵本『おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで』(岩崎書店)の出版は、岡田さんならではだと思いました。10万部を超えるヒットになっているそうですね。

岡田 ありがとうございます。これは2021年2月に発売された本で、サブタイトルが「生きものが食べものになるまで」なんですけど、この言葉がメインではないかと個人的に思っているぐらいに大事なことです。

僕が握っている寿司ひとつに、いくつの命が入っているのか。自分たちの命はたくさんの命で成り立っているということを改めて思いました。命の話というのは、まじめに話してもなかなか聞いてもらえないですよね。

でも、お寿司を入り口にすると、みんな興味を持って耳を傾けてくださいます。それは大人も子どもも一緒です。それで生きものが食べものになるまでを、わかりやすく子どもに伝えようということで写真絵本として作りました。

そもそも魚の写真を撮るのが好きだったのと、ブログを書くのが好きなんですが、それを見ていた出版社の方が「これは本にしましょう!」と言ってくださって、実現しました。自分のブログは、まさに自分だけのWikipedia状態なんです。

▲実際に魚に触れて体験する子どもたち

好きを仕事にするために大事なこと

――この連載のタイトルが「好きを仕事に」ということなんですけど、さまざまな活動をされている岡田さんにとっての「好き」とは? 

岡田 難しいですね。「寿司」とか「魚」とかだけには絞れなくて、言ってみれば、「生きものが食べものになるまで」というのが好きなのかもしれません。だから、絞れないぐらいに全部に興味があります。

最近だと、魚が住んでいる海の中についても興味があります。自分が表現したいのは、海の中で生きている状態から食べ物になっていくまでをまとめていきたいということ、それがライフワークになっていけばいいなと思っています。

そして、その先にあるのが海のことです。地球の7割を海が占めているからこそ、どんな形でもいいので、多くの人に「海」に興味を持ってもらいたいんです。その先に考えることは人それぞれでいいと思っています。

――実際に「海」に関する活動はされているのでしょうか?

岡田 「シーベジタブル」という海藻のベンチャー企業の顧問をしています。海の温度の上昇や、海藻を食べる生きものなどの食害などで、今、海藻が全国的に失われつつあり、そうすると魚が卵を産む場所がなくなってしまいます。海藻は“海のゆりかご”と言われるぐらいで大事な場所で、生態系にも影響してしまうんです。

私が顧問をしているシーベジタブルは、海藻の専門家集団で、海藻の陸地や海面での養殖に力を入れている会社です。北海道の昆布も、あと10年ぐらいでなくなってしまうかも言われている危機的状況のなかで、絶滅してしまってから考えるのではなく、今の段階でどうすれば海藻を残せるかを考えています。日本の海藻の未来を大きく担っている存在と言えると思います。

▲さまざまな海藻を観察する岡田氏

スーパーで500円程度で売られている昆布が、5,000円もするような時代が来ます。そうならないために、海藻が陸地でも作れる環境を研究し、1,500種もある海藻をどうやったら食べられるかを考えることが求められている気がしています。

――いろいろな活動をされていますが、その根幹は同じで、そこにブレはない印象ですね。

岡田 軸は何かと聞かれたら、母の死であり、食の道に進めというのは母からのメッセージだったのではないかな、という思いはずっとあります。だからブレないんだと思います、ブレたら母から怒られそうですし(笑)。興味は広がっていますが、そこにはブレない軸があって、その枝葉が広がっているのが今の活動になっているんじゃないかなと思っています。

――「好きを仕事に」ということですが、好きを仕事にし続けるために、いちばん大事なことってなんだと思いますか?

岡田 『好奇心』だと思います。好奇心が原動力になっている気がします。やりたいことの方が多いので、興味と好奇心が枯れないうちは、ずっと続けていけるんだと思います。

▲岡田氏は本にまつわるイベントも開催している 撮影 : 遠藤宏

プロフィール
 
岡田 大介(おかだ・だいすけ)
1979年2月2日生まれ。寿司職人歴25年(2022年現在)。 東京都文京区にある、完全紹介制の寿司屋『酢飯屋(すめしや)』を経営。 20年ほど培ってきた寿司の知識や技術をもとに現在は、すし作家として活動。『生きものが食べものになるまで』をコンセプトに 海と食のあいだをさまざまな形で表現し発信し、伝え続けている。「やりたいことは、やってみる」。 それが岡田大介の基本理念です。Twitter:@daisukeokada