劇場でトリを務めること、客を掴むという感覚

――M-1の出場資格がなくなって、漫才への向き合い方もだいぶ変わったんじゃないかなと思うんですが、いかがでしょうか。

ハチミツ だいぶ変わりました。M-1出てたときは、なんだかんだネタやりながらも、“今日やってるこのネタを年末に持っていくか”とか考えながらやってたけど、今はもう、その日その日にあったニュースとか、話題になっていることを適当に喋ってますよ。でも、それはそれでその日しか見られないことだから、お客さんも喜ぶし。

――二郎さんが、プロレスラーの鈴木みのるさんと「客を掴む」という感覚の話をされていたエピソードもすごく印象に残ってます。

ハチミツ 「客を掴む」という感覚は本当に説明のしようがなくて。吉本以外の劇場出てたときって、お客さんに若い人が多かったけど、浅草花月やルミネだって、はとバスツアーとかで、お客さんがおじいさんおばあさんばかりのときがある。これどうやったら笑うかなって思った頃に、あるとき「あ、もうこのさき一生、客前でスベることないな」って感じた瞬間があったんです。

その頃、みのるさんとご飯食べに行ったんですが、みのるさんはプロレスラーとして、もともと新日本にいて、そのあとUWF、藤原組、パンクラスって団体に行って、格闘技のスタイルを身に着けて、そのあとまたプロレスのリングに戻ってきたときに、ちょっと迷いがあったと仰ってて。たしかにあの頃、お客さんもレスラーなのか格闘家なのかちょっと戸惑ってた。でも、あるときから、みのるさんの試合はものすごく盛り上がる。僕のその感覚の話をしたら、みのるさんもまさに同じで。客を掴んだんですよね。

――すごい、このままNSCの授業になりそうな話ですね……。

ハチミツ こんな所で話しても仕方ないんですけど(笑)、例えば、目線をどこに置くか? だけでも変わってくる。このボケを伝えるためにはこうやればいい、とか。サイコロジー的なことまで含めて、今の若いヤツが聞きに来たら教えてあげてもいいですけどね(笑)。

――ぜひ若手の方には聞きに行っていただきたい…!

ハチミツ 料理上手な人は、さじ加減で調整するじゃないですか。塩の振り方で味を決める。でも掴んでない人は、一度スベったら“もう今日はスベリっぱなしでいいや”とさじを投げちゃう。でも俺たちはトリ、ショーストッパーなんで、そんなわけにはいかないんですよね。

――吉本興業創業110周年特別公演『伝説の一日』のとき、大阪に取材に行って、さまざまな大御所の芸人さんにトリを務めることの重さを伺いました。二郎さんが思うトリ、ショーストッパーってどういう存在だと思いますか?

ハチミツ 文字通り〆るってことですよね。料理人だったら、お客さんの様子を見てメニューにない料理も作らないといけない。今日は最初の出演者からずっと肉が続いているなと思ったら、ショーストッパーのオレたちはおしんこを出す。お客さんが重くて前までの組があまりウケてなかったら、みんなよくハイテンションでネタに入りがちなんだけど、ローで入っていく。お客さんに無理強いしちゃいけないんですよ。だって、盛り上がってない所にワーって入っていくの、痴漢と一緒ですよ。

――あはははは!(笑)

ハチミツ 例えば、ルミネでやってると、修学旅行生とかが来てて、8時半ピッタリに帰さないといけないときがあるんです。でも、前の組が持ち時間オーバーしちゃって、我々の持ち時間15分のところ、5分しかないってなったら、5分でバッチリ盛り上げて終わらせます。

――Twitterとかで香盤表〔劇場に貼ってある出番順の紙〕の持ち時間10分ジャストでネタを終えている写真をあげて、カッコ良いなと思ってました。

ハチミツ 何回か出してますね、持ち時間ジャスト。