R-1での失敗を糧に

芸人になって数年すると、仕事にも慣れてきたのを感じていた。ショーパブや営業があるときは、そちらをこなして帰宅して寝る。昼間は時間があるから、ジムに行って少し泳いだり、ネタ作る。それを繰り返す日々だった。

ショーパブや営業は、先輩芸人たちのモノマネのモノマネをしてもウケた。なんせ酔っているし、ネタを見慣れてないお客さんの前なので、笑いのハードルはとにかく低いからだ。

だが、R-1ぐらんぷり(現R-1グランプリ)に出てみて、俺は自分のいる環境に甘えていたことに気づいてしまう。

R-1の予選に来るお客さんは、いろんな芸人のネタを見てる玄人ばかり。もちろん簡単には笑ってくれない。ネタの設定や発想、動きでもなんでもいいが、とにかく抜群に面白くないと笑ってくれない。自分こそが一番面白いと思っている芸人の中から、ナンバーワンを決める大会なわけだから、笑いのハードルはメチャクチャ高いのだ。そんな舞台でショーパブ芸をやっても全くウケないことを知った。それはショックだった。

それと同時に、俺が所属していたオフィスインディーズという事務所も、ある決断をしようとしていた。売れる芸人を育てるために事務所ライブを立ち上げたのだ。

大きな目的は事務所内で競争を促すこと。月一回の事務所ライブがあれば、ネタを本気で作るだろう。「ショーパブ芸人に満足して終わっていいのか?」と問いかけられたような気持ちだった。

事務所ライブからの飛躍

事務所とキサラのあいだで話し合いが行われ、月に一回、日曜日の昼間に店を使ってもいいことになった。お客さんを入れるが、お酒などの飲食はなしで芸人のネタを見せる、いわゆる事務所ライブの王道スタイルだ。値段も1人1000円と夜のショーパブより断然安い設定だった。

事務所ライブが始まった。『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』で人気になった、くじらが組んでいたコンビ「ゆうえんち」や「ダブルネーム」、彼らに加えて、これからオフィスインディーズに所属したいフリーの芸人がネタ見せを経て、10組ほど出場することになった。

このライブには、他事務所からも芸人がゲスト出演してくれた。オードリー、サンドウィッチマンさん、いとうあさこさん、にしおかすみこさん、長井秀和さん、ヒロシさん……今でこそ誰もが知る売れっ子たちだが、当時はほとんど売れていなかったというのも感慨深い。