歌舞伎町で大学時代のライバルと偶然の再会
俺は完全にブチギレた。すぐさま武道で磨いた水平蹴りをお見舞いする。後ろに転げる黒人。更に追い討ちかけようと飛び乗る。だが、馬乗りになった俺を軽々と跳ね返す黒人。やはり腕力ではかないそうもない。寝技よりは、得意な打撃戦に持ち込みたい。
俺は立ち上がって「来いよ!」とあおると、黒人が驚いてるようだ。屈強な黒人相手にやり返してくる日本人などいないのだろう。しばらくすると、クラブのセキュリティーたちが集まり俺たちを制止した。
どうやら、その黒人は店からも目をつけられていたようで、店員とも揉めていた。それを横目に、俺はすぐに仲間とナンパ、ではなくパトロールに戻った。
ここまで読んでいただいてわかるように、俺は平和主義者なので、自分から手を出したことは一度もない。だが、心のどこかで芸人として仕事がうまくいかないモヤモヤも、きっとあったんだろう。それをクラブで発散していたのかもしれない。
それからしばらく経った、ある夜のこと。キサラに向かうため新宿を歩いていると、目の前から携帯電話で話しながら歩く、1人のギラついた男が目に入った。 なんともガラの悪そうなヤツだ。だが、そいつの顔を見て驚いた。そいつも電話をしながら俺の顔を見て驚いた様子だった。
なぜなら、そいつこそ、岐阜県飛騨高山の短大に行ってた頃、学校で存在感を発揮していた唯一無二のライバルだった男だったからだ。短大時代は「よう!」くらいの挨拶しかしなかったほど、互いを意識していた。
ヤツは慌てて電話を切ると「久しぶり、何してんの?」とテンションが爆上がりの様子。俺も昔からの知り合いに会えてうれしかった。卒業してから7年近くが経っていた。
俺は現状を彼に伝える。
サラリーマンを3年やったけど、つまらなくて辞めたこと。芸能界で成功したくて、この世界入ったこと。今はショーパブに出たりしながら、売れない芸人をやっていること。
聞けば、ヤツも短大卒業後はサラリーマンをやったが、俺と同じように脱サラして今はIT関連会社の社長をやっているという。その日は2人とも用事があったので、連絡先を交換して後日会うことになった。